頭で考えるよりも先に体がもう咄嗟に動いていた。
全身真っ赤な肌、尖った耳、鋭い黒い爪、裂けた大きな口から覗く牙に、額から突き出した大きな角。
背丈は小学校に上がるか上がらないかぐらいの子供と同じくらいなのに、可愛げはどこにもない。
――あれは、人間じゃない。妖だ。
走りながら一旦整理をつけて、後ろを振り返るとガサガサと音を立てながらこちらへ向かって走ってきていた。
気がつけば横からも音が近づいてくる。
「っっ!!」
悲鳴にならない声を上げながら、全速力で走る。
でも捕まったらやばいって分かってるのに、体が追いついてこない。
「きゃっ!」
木の根に足が突っかかりそのままドンと転ぶ。
距離を詰めてきた妖が、私に飛びかかる。
反射的に身を縮めることしかできなくて、涙が滲む。