ゆっくりと一歩前へ出ながら、足場を探る。
前も後ろも分からないこの場所で頼れるのは……嘉さんなのに。
「嘉……さん?」
そう呟いたとしても、余りにもか細い声しか出なくて声は森へ吸い込まれていくように消えていく。
も、もしかしてまた迷子状態なの?
しかもまた森の中って、2度も同じことがあったなら3度目だってあるかもしれない。
こんな不気味な所で迷子状態とは……参ったなあ。
下手に動いて嘉さんとは真逆の方向に進んでいくのも、後々怒られそう。
でもここで一人じっと待っているのも……正直、嫌。
右左を見渡し迫ってくるような霧に顔を顰(しか)める。
意を決して、拳を握り前へと歩き始める。
時折近寄り難い黒い木々の下の土に足跡を残すようにしながら、これ以上迷子にならないように目印を残して歩く。
もしかしてそれを見つけてくれた嘉さん達が、探しやすいかもしれないという期待を込めて。
数メートル進んでは、目印を付けるの繰り返しをしながらどんどん奥へと進んでいく。