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優しい花の匂いが消えた。


そう感じた途端ぬっとりと頬を濡らすような、でもかなりひんやりとした変な空気が私を包んだ。


つんとするような、硫黄に似たそんな匂い。


風が止んで嘉さんの動きが止まるのが分かる。


クンクンと匂いを嗅いで遠くを見つめる嘉さんを見ていると、支えていた腕が消えて重力に逆らえずに私はその場にとんっと落ちた。



「いっ!!……たくない??」



クッションの上にでも落ちたかのように痛みはなくて、柔らかい地面が私を受け止めてくれた。


嘉さんを見上げるようにして顔をむすっとさせる。



「もう少し優しく扱ってくださいよ!」


「生憎、俺はそういうことには疎いものでな」


「はあ……」



わざとらしいため息をつくけれど、効果なし。


手を差しのべるでもなく、スッと私の横を通り過ぎて歩いて行ってしまう。


ありがとう、地面。


そう思いながらそっと地面を撫でてから、ゆっくり立ち上がってスカートについた埃を払う。