音もなく立ち上がり、嘉さんを見下ろす。


そして何歩か後ろへ下がってペコリとお辞儀する。



「ご迷惑おかけしました。帰らせていただきます」



もうこんな変なことばっかり起こるのなら家に帰って綺麗サッパリ忘れたい。


そう思ったらもう帰ることしか考えられなくなってきた。


おばあちゃんだってきっと心配してる。


傘を持って行かなかったし、帰りも遅いし。


くるりと踵を返して歩き出そうとしたその瞬間。



「ま、待て!!それ以上動くな!」



嘉さんの慌てた声とまたしても変な力に引っ張り込まれるようなそんな感覚。


その強い力に抵抗する暇もなくまたあのフワフワした尻尾に受け止められた。



「だから動くなと言っただろうが……」



はあと重たいため息をつく嘉さん。


少し困ったような表情を浮かべて私の前にやってきた伽耶ちゃん。


そして嘉さんの額をぺちりと叩く。



「全くこの男は……」


「本格的に厄介なことになった」


「その通りだ」



嘉さんと伽耶ちゃんが同時にため息をつく。



「おい、童」


「千代です」



その童という呼ばれ方がなんか嫌で訂正する。