普通二体いるはずなのに、右の御神体が見当たらない。
手入れもされていないのか、かなりボロボロ。
そんなお稲荷様の姿に少し、胸が痛む。
ここの土地を大事に守ってきてくれていたんだろうけど……こんな山奥じゃ誰も足を運ばないか。
少し悲しそうな目でじっと私を見つめるお稲荷様。
すると、あの鈴の音が祠のすぐ後ろで聞こえた。
バッと立ち上がって祠の後ろへと向かう。
「誰かいるっ……の……?」
そう声をかけてもそこに広がっていたのは、人一人いないこの祠の小さな敷地。
首を傾げて戻ろうとした時、キラキラ輝く何かを見つける。
そこにあったのは……一輪の白い桔梗の花。
しっとりとした花びらの感覚に心が落ち着く。
「……ごめんね」
少し戸惑いながらも花を摘み取る。
手に持った桔梗の花をそっと祠の前に供え、両手を合わせて静かに目を閉じる。
「神様、仏様、お稲荷様……?どうか無事に家に帰れますように」
小さく呟くようにそう願う。
できることなら祠の中を掃除してあげたかったけど、掃除道具がないんじゃ下手に傷つけちゃうかもしれないし。