『こっちよ』
その風と馴染むように、聞き覚えのある声が耳に届く。
見渡して見ても、人影は見当たらない。
焦って空耳聞こえてきちゃったかな……ここはまず落ち着いて――
『早く!こっちよ!!』
はっきりと聞こえたその声に首を動かすと、光の粒がさらさらと集りだす。
今度は一体なんなんだ……と思いながらも、構えていると光の粒が一つの形を作り出した。
ぼうっと揺れるその姿が徐々にはっきりと浮かび上がる。
あ……と小さく声を漏らすと、そこには女の子が姿を表した。
『時間がないの。私のことは怖いかもしれないけど……私はあなたの敵じゃない』
真剣な眼差しでそう言う女の子は、ここに来る前に教室で私に力を使えと言ってくれたあの声と全く一緒だ。
それだけじゃない。
いつの日か、朝起きた時に見えたあの子に間違いない。
この子が危害を加えるような事はしないと確信が持てた。
そっとその子の元へ近づいて行くと、女の子は片手で塀を押すと大人の人が一人、十分にくぐり抜けることができるくらいの抜け道が続いていた。
『外へと繋がる隠し扉よ。ここにいたらすぐに見つかってしまう』
「あなたは……?」
『詳しい事は後で話すから。まずはここから出なきゃ』
そう促されるままにその抜け道へと進んで行くと、どこからか騒がしい声が聞こえてくる。
伊鞠くんを抱き抱え直し、出口へと向かう。
抜けた先は小さな離れだった。
人気がないこの場所にようやく一息つく。