「何を最初から諦めている。この最悪の状況を変えればいいだけの話だ」



両手を合わせたまま胸を張る伊鞠くんだけど、その状況を変える術がないんじゃ意味無いよ。


神様の遣いとは言えども、不可能って言葉を出されたら信用できないし。


こうなったら私が戒哲に説得して、家に帰してもらうしか方法が――


メキメキと音が響き、咄嗟に伊鞠くんを庇うようにしゃがみ込む。


でも部屋の壁が徐々に形を変えていく音だと言うことに気づき、そっと伊鞠くんを見れば額にぷっくりとした汗が浮かび上がっていた。


その汗を拭いながら、私の腕の中で身じろぎ私から解き放たれるとそのまま何の迷いもなく、壁にできた大きな穴へと向かう。


その穴を上から下までじっくりと眺め、満足そうに大きく頷いた。


左右に揺れる尻尾がいつもよりも穏やかに揺れる。



「なかなかの出来だな。これを嘉様にも見てもらいたいぐらいだ」



嬉しそうにそう言って、得意げな表情で私を見る。


えっと……つまりこれは、伊鞠くんが不思議な力でこの穴を開けたってこと?


一体こんな小さな体だっていうのに、どこからそんな力を出すんだろう。