流れた涙は止まらなくて、体に力が入らなくなってくる。


戒哲の顔が私の顔の目の前スレスレで動きを止めて、はあと重たいため息を漏らした。


涙目の私の目をじっと見つめたかと思えば、急に鼻の先をあまがみしてきた。


突然の行動にびっくりしていると、拘束していた手をそっと離した。


支えていた力がなくなり、私はそのままヘナヘナと床に座り込んだ。


私から距離を取った戒哲は、窓の外を見ながらむしゃくしゃとした表情をして髪を掻きむしっていた。



「泣くなよ!!」



そう怒鳴られて体をびくりと反応させると、そんな私に戒哲はギョッとしてアタフタとその場を行き来する。


そっと涙を拭って呼吸を整えていると、意を決したかのように戒哲は私の前にしゃがみ込んできた。



「悪い……怖がらせるつもりは、その、なくてな?ただ俺は……あんたの力よりも……欲しいものを見つけてしまったみたいだ」



鼻を啜って戒哲を見ると、顔を真っ赤に染めていた。


チラチラと私を見ては、頭を振る戒哲が何かしたいのかよく分からなくてキョトンとするしかできない。



「なあ。俺と一緒に来ないか?」



その真剣な眼差しで問われたことに、私の首は縦に動くことはない。


私には帰るべき場所がちゃんとある。


帰りを待っている人がそこにいる。


そう、こんな所にずっといる訳には行かない。


キュッと唇を噛み締めて、戒哲を睨んだ。



「――なら、無理矢理しかないってわけか」



ケタケタと響くあの妖の鳴き声が大きく響いたのと同時に、戒哲の体が真っ黒に染まる。