「…あれ?なんか、良い匂いがする」

そう言った健吾が華の部屋のベランダを覗きこむ。

「…ん?…ぁ、あー、そう言えば煮物をしてるんですけど、その匂いかな?」

「…旨そうな匂い」

…一瞬考えて、閃いたように手を叩いた華が、健吾に言う。

「…味見してみます?まだ、途中なんですけど」
「…いいんですか?!」

「…わっ!ちょっと!落ちます!」

ここはマンションの8階。落ちれば即死だろう。

華は慌てて健吾を押した。

「…持ってきますから、ちょっと待っててください」

そう言うと、華は部屋の中へ。

…待つこと数秒。

華が再びベランダに来て声をかけた。ベランダの向こうの健吾に皿を差し出す。

「…味見してみてください」
「…ありがとうございます」

…て。手が触れた!!!

皿を落とさないように健吾はしっかり華の手に触れた。

何でもないことなのに、イチイチドキドキしてしまう華。

「…ど、どうですか?」
「…」

…口に合わなかったのかな?華は凄く不安になった。

「…んまい!」

突然の健吾の叫び声に、華は体をビクつかせた。

「…こんな旨い料理なら、毎日食いたいです‼」
「…そんな、大袈裟な」

過大評価する健吾が、なんだか可笑しくて、華はクスクス笑う。