…テーブルの上は、食べられた食器がそのまま。

片付けたいが、とりあえず泥だらけの服を着替えよう。華はそう考えて、寝室に入り、服を出す。

…長Tシャツに、ジーンズ。それが華の定番の服。正樹が生まれた頃はまだ、それなりに服にも気を使っていたが、走り回る正樹を追いかけるには、スカートなんて、はけなくて。パンツしかはかなくなった。

鈴を産んだ後は、体重が妊娠前より10キロ近く増えた。ダイエットするまもなく、毎日あわただしく過ぎていて、今、鏡に映った自分の体を見て、華はまた苦笑い。

「…女捨ててる、かな」

でも、日常は待ってはくれない。エプロンを身につけ、華はテーブルの食器を片付けると、直ぐに洗濯を始める。その間に部屋の掃除をして、洗濯機の終わりを知らせる音楽が流れると、それをベランダに干す。

パンパン。

シワを伸ばして綺麗に干していく。

風が気持ちいい。

「…良い天気。ぁ、お布団も干そう」
「…ホントに、良い天気ですね」

「…え?」

隣から聞こえてきて、華は思わずベランダから身を乗り出した。

「…ぁ」
「…さっきはどうも」

色々してたら、頭なでなで事件はすっかり忘れていた華が一気に思い出す。

『貴女はよく頑張ってますよ』

子供にも、夫にも、そんな事は言われたことがなかった。ましてや、頭を撫でられるなんて、夫もう何年もされてない…エッチなんてしたのいつだっけ?