本当は、見に来れないなんてわかってる。



だけど、こんな風に2人で話す時だけは普通の、ただの恋人同士になれる。

本当は出来ない事でも、出来る様に思えるから。



小さな夢くらいみても、いいよね?



《あ、俺そろそろ戻らなきゃ駄目だ》



不安だったあたしの心に優しい笑い声が響いたところだったのに、現実は残酷。


圭矢の後から、圭矢の名前を呼ぶ声がして仕事に戻らなきゃいけないのを教える。



「そっか。圭矢、仕事頑張って…」



そう言おうとした声に後から巧の声が重なった。



「おい、雫。菜摘さんが呼んでんぞ」



視線を向けると、信号を渡ったところで大きく手を振る菜摘の姿が目に入った。

うんうん、と頷いて



「あ、あたしも呼ばれてるや。じゃあね、圭矢っ」

《あ……雫》

「え?」



切ろうとしたあたしを呼ぶ声と、

『KEIさーん』

耳に届く、圭矢を呼ぶ声。