【完】DROP(ドロップ)




「おはよーございます♪」



ホームで電車を待つ後ろから、声をかける。


振り返った圭矢君は、少し驚いた顔を見せながら、



「また……えっと」



って考えるから、ニッコリと笑って答えた。



「しずく! 雫です」

「あぁ、雫ね」



“雫”だって。

雫って呼んでくれたぁ。

一歩前進♪



久々に会えた圭矢君に、緊張気味のあたし。

だけど、中々会えないからこそ頑張らなきゃね。



「圭矢君! メアド教えてもらえませんか?」

「……」



あたしを見下ろしたまま、無言。


あれ?

聞こえなかったのかな?

もう一度、



「メアド教えてもらえますか?」



そう聞き直したあたし。


だけど、圭矢君の返事は期待していた『いいよ』なんかじゃなくて。







「……何で?」



……何でって。

今、『何で?』って聞き返されたのかな。



「え?」



その一言で引き攣ったあたしの笑顔。



「えっとー。好きになったからです」



なんて、そのまま引き攣った笑顔で答えてみた。



「はぁ!?」



その答えを聞いた圭矢君は怪訝な顔。



「初めて会った時に、一目惚れをして。で、仲良くなりたいなーって思ってですね」



って、何であたしサラッと告白までして、こんな説明してるんだろう?


まずはお友達になって。
告白は、仲良くなってから。


そんな、あたしのプランはどこへやら。


そう気付いたあたしに、もっと驚く言葉が返ってくる事になった。



「……俺、誰とも付き合う気ないから。だから仲良くなんてなる必要もないよね」







終った。



あたしの一目惚れが終った。



あたしの恋が終った。



仲良くなる必要がないって。



誰とも付き合う気がないって。



そんなぁ~(泣)







「敵も中々、やるわね」



休み時間、菜摘があたしの話を聞いて呟く。



圭矢君に振られた後、あたしは電車に乗るのも忘れてホームに呆然と立ち尽くしていた。

気付いた時には、人で溢れ返っていた駅が落ち着きを取り戻し始めた頃だった。



慌てて電車に飛び乗るも“遅刻なし3週間”は、あっと間に終了。

遅刻して先生に怒られながらも、圭矢君に言われた言葉を思い返すばかり。



「恋と一緒に遅刻ナシも終ったんだよ」



ボソッと言ったあたしに、



「はぁ!? 諦めるつもり? たったそれだけで。あんたの恋はそんなに簡単なものだったの!?」



大きな声で菜摘が迫って来る。



すごい迫力……。






「で、でも……」

「でもじゃないっ!」

「だけどさぁ……」

「だけど、でもなーい!」



何を言っても否定され、黙ってしまう。


そんな事を言ったって、振られたんだし。
何をどう頑張ればいいのよー。


不服そうな顔で菜摘を見つめると、仁王立ちをした菜摘は



「よし、どんな男か私が一緒に見に行ってあげる!」



そう嬉しそうに、何かを企んだ顔で笑った。







「ねぇ、やめようよー」

「何言ってんの! 私がガツンとメアドくらい教えてって言ってあげるからっ」



次の日、駅のホームで圭矢君探す菜摘。



わざわざ、遠回りをして朝から一緒に圭矢君を待ってくれているんだけど。


どこをどう間違ったのか菜摘は怒っている。


あたし、話するの下手なのかなぁ?

何で、菜摘は怒っているんだろう。

告白して振られただけなのに。




って、圭矢君だ!!!



ホームに現れた圭矢君を見つけたあたしは、キョロキョロと辺りを見回す菜摘の腕を引っ張り柱へと隠れた。



「ったぁーい。何すんのよ?」



いきなり引っ張られた菜摘は怒りながら振り返った。


それを上手く説明出来ないあたしは首を振りながら、



「あれ、圭矢君」



と人差し指を向けて伝えた。







「え? どれ?」



そう言いながら、もっと見えるところに行こうと、あたしに引っ張っていかれた柱から出ようとした。


けど、その足は止まり。


一歩出た足を元に戻し、もう一度あたしと一緒に柱に隠れ振り返った。



「ちょっ……あれ?」



今度は、菜摘が指差した。

うんうん、と力強く頷くあたし。

それを見て、凄く驚いた顔をした菜摘は口をパクパクとさせている。



「……すっごいイケメンじゃない!!!」

「ちょっと、声大きいって……」



あまりの大声に通り過ぎる人が振り返る。

恥ずかしくなったあたしは、菜摘の口を押さえた。



「だって……あれだよ!?」



押さえたあたしの手を、握りながら今度は小声で話す。

だから、一目惚れだって言ったじゃん。







そう思いながら、



「かっこいいでしょ?」



なんて頬を赤く染めたあたし。



「何赤くなってんのよ。ほら、行くよっ」

「へ!?」



すかさず突っ込まれ、腕を引っ張られたあたしはマヌケな声を出しながら圭矢君の前に立っていた。



えぇぇぇぇ。



驚きながら顔を上げると、あたしを見下ろす圭矢君と目が合った。

バッと逸らしたあたしの上に、



「……また、あんた?」



と冷たい声が響く。


ほら!

すっごい鬱陶しそうな声だったよ。



だから言ったのに。

もう終ったって。



菜摘の馬鹿ぁ~~~。






「はじめまして、菜摘って言います♪」



隣で暢気に自己紹介なんて始めてる。



あたしは、ガックリしたままさっきの冷たい声がエコーがかかったように響くだけ。



本当、最悪だーーー。



1度目は、恋して。
2度目は、名前聞けて。
3度目は振られて。


あたし何で告白なんてしちゃったのよ。

もうちょっと考えてから……って、今更こんな事で反省しても仕方がない。



「あはは、そうなんですかー」



ん?



次は何を言われるのか不安に思っていたあたしの耳に、菜摘の笑い声が聞こえる。


ふと顔をあげると、何故か圭矢君と普通に話す菜摘。



な、な、なんで~~~!