ずっとずっと遠くて。
もっともっと近くに。
その距離は、一向に埋まらない。
そう思っていたけど、いつも想っていてくれたんだね。
気付かなくて。
怒って、泣いて、責めて、心配させて
ごめんね?
気付いて。
笑って、喜んで、嬉しくて、楽しくなって
ありがとう。
どんな高価な物よりも貴方のくれる、その想いが
あたしの1番の宝物。
朝の光が眩しいくらいに入ってくる部屋。
遮光カーテンじゃない、あたしの部屋は毎朝薄いピンク色に染まる。
誰かが、あたしを呼ぶ声。
まだ眠いのに……。
もう少し、もう少しだけ。
寝かせ……
「てぇ〜」
「雫! いつまで寝てるのっ!」
「ったぁ〜い」
バシッと叩かれたお尻を摩りながら、目を開けると鬼の様なお母さんの顔。
それから目を右へと逸らすと、後に7時40分をさした時計が見えた。
はぁ!?
7時40分!?
ガバッと起き上がったあたしはベットから飛び出した。
「えぇー! お母さんの馬鹿ぁー」
「お母さんは悪くないわよ。雫がニヤニヤ笑いながら“もうちょっと〜”って言ったんじゃない」
「ニヤニヤなんかしてないもんっ」
「してたわよー、気持ち悪く」
「してないっ!」
あ。
こんな言い合い、してる暇なんてなかったんだ!
あたしの寝顔マネをするお母さんを睨みながら、洗面所へと走る。
歯を磨いて、顔を洗って、水で濡らした手でパッパッと寝癖直し。
いつもならするメイクも今日はパス。
また部屋へ戻って、制服を着て鞄を持った。
その様子をリビングで見るお母さんが、
「こんなで結婚出来るのかしらね?」
呟くのが聞こえる。
その姿をチラッと睨み
『いってきます』
少し低い声で言って走って飛び出した。
あたし、上原 雫(ウエハラ シズク)。
高校1年生。
1週間に2〜3度は、こんな慌てた朝を迎えています。
7時57分発、快速電車。
起きてから17分で、この電車に間に合うのには、自分でも尊敬してしまう。
駅へと流れるように入って行く人達の波に紛れる。
今日は、ヤケに風が強くて嫌になっちゃう。
風で右へと流れた髪を手櫛で整えた時、ホームに入って来た電車を見て、また憂鬱になった。
中は“満員”その言葉がピッタリなくらいに人人人。
扉が開いたら降りる人を待たずに乗り込むオジサンを睨みながらも、順番を待った。
電車に乗ると、
『扉が閉まりまーす』
と大きなアナウンスと共に閉まった扉。
そして動き出した電車は、ガタガタと揺れる。
うわっと。
目の前にある手すりを掴みたいのに、人が多くて中々掴めない。
もう毎朝毎朝、混み過ぎなのよー。
そう、心の中で文句を言った時だった。
ガタンッ!
と音をたて、左へと動いた電車に上手くバランスが取れず、私の体も左へと流されてしまう。
その瞬間、
目の前の人の胸に顔面からぶつかってしまった。
いったぁー……
そう思いながらも謝ろうと顔を上げた時。
――時が止まった。
柔らかそうな栗色の髪。
セットしているのか、いないのか今時の髪型だけど、汚くなくて。
あたしより綺麗かもしれない。
にきびなんて無縁じゃないかってなくらいに、きめ細かい肌。
整った眉。
切れ長なのに、大きく二重な目。
髪とよくあったブラウンに近い瞳はカラコンを入れているのかと思ったくらい。
鼻筋も真っ直ぐ通っている。
唇なんて、綺麗すぎて思わずあたしの唇を隠してしまいたくなったくらいだった。
スラッとした長身で。
適度な筋肉。
あまりにも完璧で綺麗なその人に見惚れてしまったんだ。