【side 南夏】


俺のことは全然名前で呼んでくれないのに。


こうちゃん、こうちゃん、良い加減うるさいよ。


「…く、黒川くん」


か細くて震えてる沙良の声。


大好きな彼女なのに。


大切にするって決めたのに。


根っこにある俺のもともとの汚い部分は簡単には消えてくれないみたいだ。



蘇ってくる。


沙良に出会う前の、ダメ人間を生きてた日々。


「…う、ご、ごめんなさいっ」



「……」



────バタンッ


ベッドに座っていた沙良はベッドから立ち上がると、逃げ出すように部屋を出て行った。


きっと沙良は泣いていた。



守るって決めたのに。


泣かせないって決めたのに。


「なにやってんだよ…」



俺は頭を抱えながら、小さくそう呟いた。