颯人くんだった。
「俺が誘ったから来てくれたんじゃん新井は。
なのになんで新井が責められるの?
俺を独り占めとかわかんねぇし。
俺は誰のものでもないし
誰と一緒にいたいかは俺がきめるの!」
ざわざわ…
「文句ある?」
颯人くんはガヤガヤしてた女子たちを睨んだ。
「ないです…」
そう言って女子達は黙って引き下がっていった。
「新井?大丈夫だった?」
『うん、ありがとう颯人くん。』
颯人くんは心配そうに言ってくれる。
「ごめんな、俺のせいで。」
『ううん。気にしないで!』
「なにかあったら俺に言えよ?」
優しいね、颯人くん。
いっそうのこと颯人くんのこと好きになれればいいのに…
「これで、今日のホームルームを終わります。
解散!」
『きりーつ!気をつけー!
ありがとうございましたー』
「「「「「ありがとーございましたー」」」」
とんとん
誰かが背中を叩いてる…
いやーな予感…
「おい新井。」
そこには笑顔の先生が。
『なんですか先生?』
「今日は資料管理室な〜」
いやいや、行くともなんとも言ってないよ私。
どうしよう。
でも喋りたくないし。
喋れない。
がらっ
そう言いながらも来てしまった…
…やっぱり先生に会いたくて
「おー新井!」
『それで、今日はなんですか?』
「実はなー俺わかったかもしれん」
『なにがですか?』
「呼び出したくなる理由。」
え?じゃあもう呼び出しないの?
『やだ…』
だって、もう先生とこうやって喋れないんだよ?
今までは散々嫌って言ってたのに、
今、はっきりわかったよ。
もう、ごまかすのなんかやめて、
自分には正直になろう。
私、先生に恋してる。
「おーい新井〜?
だいじょうぶか〜?」
先生が私の顔を覗き込んできた。
『はい?』
「お前ぼーっとしてたろ?
熱でもあんのか?
顔赤いぞ?」
ぴたっ
先生の手が私のおでこに触れる。
『だ、だいじょうぶですから!!!!』
「そか?」
そう言って離れる先生。
「んじゃあ、理由を発表しますか…」
『ねぇ、先生。』
「ん?」
『理由言ったらたらもう呼び出さないの?』
「んー。まぁ、そうかもな…」
『んじゃあ、ききたくない!!』
「え??」
『やだもん、先生、これからも呼び出してよ!』
「いやいや、なに言ってんのおまえ?
呼び出されたくないって言ってたじゃん」
『だからね、先生、
私、先生のことが…』
「おい、新井。
それ以上言うな」
え…
先生…
やっぱり迷惑だよね。
ごめんね。
『ごめんね、先生。
もう理由もいいから。
これ以上よびださないで。
関わらないでください。
…ばいばい、先生』
そのまま、私は部屋を飛び出した。
先生の顔なんか見ずに。
先生の言葉も聞かずに。
あれから、私は先生と委員会と授業以外では一切しゃべらなかった。
先生は休み時間とかに喋りかけてきたけど、
全部無視した。
だって、関わっちゃだめだから。
「それ以上言うな」
あの時先生はそう言ったよね?
言っても、ただ先生の迷惑になるだけ。
だから私の気持ちは誰にも言わない。
先生にもしゃべらない。
喋ったら、言っちゃいそうだから。
抑えきれなくなりそうだから。
「おーい新井!」
『あっ颯人くん』
「今日はタルト食べに行かね?」
『いいよーいこいこ!』
最近、私は颯人くんとスイーツ巡りにハマり中。
ももかちゃんとはあれ以来喋ってないけど、
他の女子は優しくなったし、前よりもみんなのと関われてる感じで、これはこれで悪くない気がするんだ…
「新井〜、俺お前のこと好きなんだよなぁ。
お前俺の彼女にならねー?」
颯人くんはさいきんこればっか。
『ごめんねー無理かな〜』
私は毎回こうやって笑って断る。
本当は「いいよ」って言いたいけど
やっぱり忘れられないから。
中途半端な気持ちで付き合って、
颯人くんを傷つけたくないから。
教壇に立つ先生。
相変わらず「カッコイイー」などなど
の先生への黄色い歓声は絶えない。
橘先生ファンクラブとかできてるし…
私は見てるだけでいいんだ。
それだけで幸せだから。
これでいいんだ。
そうだよね、ね?