廊下で俺を追いかけて来た江藤が軽々しく声を掛けてくる。

「天見、なんか機嫌悪そうだな。元々冷たい奴だけど、先生にあの態度はないぜ。先生があそこまで気にかけてくれてるんだから、もう少し気を遣えよ」

「お前、見てたのか?」

「まあな。まさか、学年一の秀才が進学しないなんて、ありえないじゃないか。先生だってそりゃびっくりってもんだぜ。そんな事聞いたら、俺も気になるわ」

「江藤は首突っ込み過ぎだ。人の事構うより、自分の事考えろよ。お前は将来パイロット目指してるんだろ。あれは勉強できたところでなれるもんじゃないぞ」

「えっ、なんで知ってんだよ」

「自分で言ってたじゃないか。江藤こそ、しっかりしろよ。じゃーな」

 痛い所突かれて、面くらってる江藤を置き去りにして、俺は廊下を気怠く歩いていく。
 放課後の学校は束縛されない開放感に溢れていた。

 帰宅する者、部活に行く者など人で溢れている中をすり抜けて、俺は下駄箱に向かった。
 靴を履きかえ、外に出れば心地よい風がすり抜けた。

 その風に乗って、散った桜の花びらが小さく渦を巻いて滑って行った。

 それを目で追っていたとき、比較的真新しいつやつやの茶色のローファーが目に入り、それが自分の許へと近づいて来た。

 それは覚束ない足取りで、ふらふらと震えている。

 そして俺の目の前で止まったから、俺は顔を上げてそいつを見た。