「す、すみません」

 どうしていいのかわからないまま、ノゾミは逃げるように去って行った。

「ちょっと、おい!」

 俺が呼び止めても、後ろも振り向かず一目散に廊下を走って行く。
 人とぶつかりそうに、こけそうになりながら、最後には小さくなって姿を消した。

「なんなんだ、アイツは」

 女の子が鼻血を出した姿は人に──好きな人の前であるならば特に、あまり見られたくないのだろう。

 鼻血を出す程までに俺に触れられて興奮していたと思えば、一途な思いを感じて俺は知らずと微笑んでいた。

 本人は恥ずかしくてたまらなかっただろうが、あの慌てぶりに後からじわじわと笑えてきた。
 一口しか食べられなかったが、あの苺タルトは中々の味だった。

 もっと食べたかったと素直に思うし、それをどんな気持ちで俺のために作って来たのかを考えると、ノゾミの思いは確実に舌にも残っていた。

 教室に戻れば江藤が興味津々と、また俺に色々と訊いてくる。

 苺タルトを大いに褒め、また作ってきてほしいと頼んできたが、ノゾミと俺が付き合う事に関しては、共通点が見つからないやら、趣味に合ってないやら、挙句の果てには釣り合ってないとまではっきりと言ってきた。

 そこに何らかのメリットがあるから、妥協したんじゃないかと言われた時は、江藤の慧眼さに慄くものがあった。

「お前な、本人が居ないからって、あまり彼女を下げるような事をいうなよな。失礼だろうが」

「しかしだな、あまりにも平凡すぎて、派手なお前といるから、彼女もその立場をわかって無理してるのが痛々しいんだよ」