まだ実感も湧いてないながら、昼休み、ノゾミが俺の前に突如現れた時は、また不意を突かれてびっくりしてしまった。

 上級生の教室に一年生のノゾミがズカズカと入り込んでくるその様は、歴代の大勢のスーパーヒーローを前にして、無理に戦おうとしている、弱き悪の手下を連想させた。

 ノゾミもカチコチになって必死の形相で強張っている。

 それでも負けてなるものかと踏ん張って、ロボットのように動きが変になりながら、俺が座っている席までやってきた。

「こ、こんにちは」
「ああ、お前か。こんなところまで来てどうした」

「こ、これを」

 震える手で白い箱を俺の机の上に差出した。

 俺がすぐに行動しないから、傍に居た江藤が代わりにその箱を開ければ、赤いつやつやとしたものがパッと目に入った。

「うぁお、美味そう」

 江藤が声を上げると、周りに居た者も覗きに来て歓喜があがった。

「昨日お約束したお菓子です。苺タルト作ってきました。甘さも抑えました」

 自信なさそうな弱々しい声。

「おお、そうだったな」

 こんなに早く持ってくるとは思わず、それも見栄えは店で買ってきたように完璧に作ってあった。

 きれいに切り添えられた苺がタルトの上にのって、ナパージュされているから、つやつやでルビーのようにキラキラ光っていた。

 直径15cmくらいの小さめなものだが、一人で食べるにはデカい。

「いいな、天見。俺にも半分くれ」

 江藤が先に手を出そうとするのを、俺は叩き、とにかくそれを手にとって、端を一口噛んでみた。

 さくっとしたタルトは口の中でいい塩梅に崩れていく。

 そこに甘みを抑えたカスタードクリームに苺の甘さが引き立って、素人が作ったにしては店で売ってもいいレベルの味だった。

「うん、美味しい」

 それは本当にそう思ったし、素直な感想だった。
 ノゾミは、目を潤わせてほっとしていた。