興味を持って俺も承諾したんだし、すでに俺はこの件に関しては取り消せない状態だ。
 だから、いちいち気にする方が間違いだという結論に達してしまった。

 そんな思いを抱き、俺のマンションの前に来た時、ノゾミはさらなる挙動不審になって落ち着かないでいたから、これも許容範囲と言い聞かせた。

 しかし、なぜ故にこんなにもそわそわしているのだろうか。
 もしやこれは、まさか、俺が家に誘うかどうか期待している? まさか……

 母親は仕事で、家には誰もいないが、それも知ってて、密室に二人っきりになって次へ進もうとしている?
 それでついて来た?

 おいおい、今日会ったばかりだぞ。

 でも期限は三ヶ月だし、彼女の提示している報酬が一億円ならば、俺はそこまでの関係を結ぶと期待しているのだろうか。

 だが俺も万が一、誘われたら興味がないと言えば嘘にもなるし、断るのもアレだし、うーん、どうすべきなんだ。
 もらえると確定していないその一億円という金額の重みに、俺も次第に麻痺していた。

「あのさ……」

 俺が言いかけた時、ノゾミは辺りを警戒しながら、観音開きのガラスドアを開け、マンションの入り口に俺を押し込むようにして一緒に入って来た。

 あまりにも強引なその態度に、面食らってしまった。
 そこは郵便受けとエレベーターと階段がある、住人が頻繁に出入りする場所。

 いわゆるエントランスホールだが、人が出入りして通り過ぎるだけのガランとした静かなホールとなっている。

 俺がノゾミと密接してあたふたとしていると、タイミングよくチンと軽やかなベルが鳴り、エレベーターが階に到着してちょうど人が降りてきた。

 何度か顔を合わせた事のある主婦だった。
 「こんにちは」と挨拶され、俺はつい条件反射でノゾミから離れた。

 俺は気まずい思いを抱きながら、誤魔化すように「どうも」と頭をさげた。
 その主婦は俺とノゾミをじろじろ見ながら、ドアを開けて外へと出て行った。

「なんで俺が焦らないといけないんだよ」

 不満が漏れたが、ノゾミは全くお構いなく腕時計を見て、時間を確認していた。

 また俺の体を押しながら、閉まりかけていたエレベーターの扉に咄嗟に手をかけ、俺に乗るように指示してきた。

「早く中に入って下さい。早く!」
「おい、ちょっと、どうした」