一緒に駅まで歩いて、同じ電車に乗り、そして同じ駅で降りた。

 ノゾミは口数少なく、ひたすら俺の傍にぴたりとくっ付き、周りを気にしながら辺りをキョロキョロしている。

「ずっとついてくるけど、お前の家もこの辺りなのか」
「いえ、違います。学校の近くなんです」

「おい、だったら、電車乗ってここに来る必要がないじゃないか」
「その、一緒に先輩と歩きたかったんです」

「それにしても、どこまでついて来るつもりだ」
「先輩のマンションまでお供します」

「ちょっと待て、お前は家来か。それよりも、なんで俺がマンションに住んでるって知ってるんだ? まさかストーカーしてたのか」
「ち、違います。この辺り来た事があって、それで、その」

「俺を偶然見たってことか? 参ったな。それで次は何を企んでいるんだ?」
「とにかく、家まで送らせて下さい! お願いします!」

 いきなりしゃきんとして、また必死に頼んでくる。
 一体こいつはなんなんだ。
 俺も言い返す気力がなくなった。

「ここまで来てしまったし、家の場所も知られてるんだから、断ってもどうせついてくるだろう。わかったよ。気の済むようにしろよ」
「ありがとうございます」

 また顔が明るくなって、やっぱり名前のごとく希望に満ちていた。
 ノゾミの行動が、俺の想像を超えて不可解過ぎる。

 それでも俺は首を傾げながら、とことん付き合う事に決めた。
 何かが突拍子もない変化をもたらしそうに、俺はノゾミを改めて見てみた。

 ノゾミはこの時、キョロキョロとして落ち着かず、周りを警戒して神経を高ぶらせていた。

 この辺りは近くにコンビニやスーパーはあるし、住宅やビルが密集していて、ごちゃごちゃした街並みだが、住むには悪くない。

 何をそんなに気にしているのかというくらい、ノゾミは人とすれ違う度に過敏になってじろじろと見ていた。

 慎重深く、真剣に取り組む様は憑りつかれているようにも見え、その理由を訊くのも躊躇われた。

 とんでもないものと係わってしまったんだろうかと、俺は付き合うという言葉に今になって重みを感じてしまった。

 一億円──
 三ヶ月──

 そのキーワードを何度も反復し、終わりを見届けるまで我慢しようと決め込んだ。