「・・はい。私、幼いころ、その方にあこがれていたんです。今考えると、きっと初恋なんです」


「その男性のことが、好きなのですね」


 好きと断定されて、ケイトリンはそれが自分の気持ちであることを自覚して頷いた。


「その方とは数年ぶりにお会いしたのですけど、一緒にいるとどきどきして胸が苦しくなるんです。それに、とても危険なことをなさっているみたいで。私、何か力になりたいのですけど」


 そう言ってケイトリンは自分の胸の前で両手を合わせた。


「今更そのことに気付いても、仕方のないことです」


 自分自身に言い聞かせるように、ケイトリンは目を閉じた。


「なぜ仕方がないのですか?」


「ファビアン王子との結婚はすでに再来月と決まっていますし、今更どうこうできる問題とは思えません。第一、その方を好きなのは私の一方通行ですから」


「なるほど」


 フェルナンドは、右手を顎にやると大きく頷いてみせた。彼の左手にある本棚に視線を向けると、先ほどまでよりも少し大きく「ですが」と声を上げた。


「自分の結婚問題を解決できないようでは、この国の貧富の問題を何とかしようなどというのは、到底不可能なことに思えますがね」


 ケイトリンははっとして、目を大きく見開いた。青い瞳が輝きを増して見える。


「失礼なことを申しました」


 そう付け加えて、フェルナンドは頭を下げた。 


 ケイトリンは「いいえ」と答えて一礼すると部屋を後にした。