「な、なんでそんな。私・・」


「あっはっは。ひょっとして図星でしたか? 再来月にはご結婚でしたね」


 結婚の話が出た途端、ケイトリンの表情が曇った。


「・・どうやら、私に話したいのは、ご結婚のことのようですね」


 フェルナンドは、一瞬するどい瞳でケイトリンを捕えたがすぐにいつもの笑顔を浮かべる。ケイトリンは「はい」と消え入りそうな声で返事をした。


 国内で貧富の差が激しいと感じること。ファビアンとの結婚のせいで、貧しい人々がより貧しくなっているのではないかと思うこと。ファビアンと交わした会話。


「ファビアン様のおっしゃっていることも正しいと思うのです。でも、他国へ権威を示すために自国の民衆が苦しむというのは、おかしいのではないかと」

そこまで言うとケイトリンは顔を上げて、フェルナンドを見つめた。


「・・あの、先生も父が悪徳執政官だとお思いになりますか? 私は、父に相談するのがいちばんの早道だと思ったのですけれど、兄は、父には話すなと言うのです。私、本当のことが知りたいのです。先生はどう思われますか?」


 フェルナンドは、少し間を置くと、「難しい問題ですね」と目を閉じた。


「ロッソ執政官長の政治手腕は、素晴らしいものだと思います。特に貿易に力を入れたおかげで、我が国は周囲の国々と対等以上の立場を築いていると思います」


「ただ」とフェルナンドは声を落とす。


「弱いもの、貧しいものから搾取され、富める者がより富む、という構造になっていることは、問題でしょうね」