「あの、フェルナンド先生」


 ケイトリンは周囲を気にしながら、他の人に聞こえないようにフェルナンドにそっと話しかけた。


「なんでしょう?」


 フェルナンドは人のよさそうな笑顔を見せる。


「実は、私、ちょっと先生に聞いていただきたいことがあって」


 フェルナンドに笑顔を返すことが出来ず、ケイトリンは俯き加減に答えた。


 フェルナンドはケイトリンの父よりも年上で、柔和な雰囲気を持っている人物だった。貧民街の中心にあるこの教会で、身寄りのない子供たちの世話をし、この地域の人々から「先生」と呼ばれ信頼も厚かった。ケイトリンも付き合いを始めてすぐに彼のことを信頼するようになっていた。


 フェルナンドは、ケイトリンの様子を見て何事かを察すると、すぐにケイトリンに頼みたいことがあるからと理由をつけて作業を中断し、彼女を自室に招いた。


「ここなら、誰にも聞かれませんから、安心してくださいね。ケイトリン様」


 すでに、ケイトリンが何を話したいのかを知っているような表情で、フェルナンドはケイトリンに椅子をすすめる。


「“様”は、いりません。ここでは、ただのケイトリンですから」


 ケイトリンの身の安全を考えて、ここでケイトリンの出自を知っているのはフェルナンドだけだ。


「そうでしたね。なんだか元気がありませんが、何か悩みでもあるのですか? ひょっとして恋煩いですかね?」