「ロッソは、俺の父の敵だ」


「敵?」


「ロッソは、俺の父を殺して、今の地位を手に入れた」


「まさか!」


 いくら世間で悪徳貴族と言われようと、あの優しい父が他人を殺めて地位を築くなどありえないことだ。ケイトリンは、レイフの言葉を心の中で否定した。


「もう行く。話すはずのないことまでしゃべってしまった。今日の俺は、どうかしているようだ。このペンダントは、俺が預かる。あの子供たちは心配いらない」


 それだけ言ってレイフは窓枠に足をかけた。


「待って」


 ケイトリンの言葉に、彼を止める効果はなかった。真っ黒い背中は、それ以上に暗い闇の中へ吸い込まれるように消えて行った。


『悪徳執政官長ロッソ』


 ニルスという少年の言葉が頭の中でこだまする。


(いくらなんでも、そんなこと嘘だわ。きっと何かの誤解よ)


 それにしても、仮面の男は、レイフに似すぎている気がする。やはり、あれはレイフであるに違いない。そう思ったところで、ケイトリンははっとした。


(ちょっと待って。彼がレイフ様だとしたら、父というのは・・)


 ケイトリンは背中に冷たいものを感じて目眩がした。


(お父様が前王を、ランベール叔父様を弑したというの!?)


 ケイトリンは、窓際に駆け寄り目を凝らして外を見たが、すでにレイフの姿はどこにもなかった。