「お前のものだろう」


「そうです。でも、だって、これ盗られたのですよ。一体どうして?」


「盗み方に特徴があったからな。あいつらは、あれで飢えずに済んでるんだ。許してやってくれ」


「許すだなんて」


 むしろ、自分たちが贅沢をしているせいで、貧しい生活を強いられているのに、とケイトリンは思った。


「あの、これ、いくらくらいで売れますか?」


 ケイトリンは自分の手の中にあるペンダントの鎖を指に引っ掛けると大事そうにレイフにかざした。

「何?」


「これを売って、盗んだこどもたちに食べ物を届けてほしいんです」


 レイフは面食らった。


「大事な物じゃないのか」


 だからこそ、あんな危険な場所に入り込んでいたのだろうに、とレイフは思った。

「はい。母の形見です。死の前日に私にくださったものです」


「だったら」


「でも」と言いながら、ケイトリンはペンダントにはまった宝石を大事そうに指先で撫でた。


「もう二度と手にすることはないとあきらめていたんです。これはあの子たちにあげたもの。そう考えて、あの子供たちが飢えずにすむならその方がいいと思って」


 今までレイフが知っている貴族の女たちに、そんなことを言う者はいなかった。子どもの罪を許すどころか、報酬を与えるなどと。ひょっとして、とレイフはうがった見方をする。


「どうせ、ファビアンと結婚して新しい宝石をいくらでも手に入れられるからか?」