豪華なドレスを仕立てるための採寸がどのように終わったのか、ケイトリンはほとんど覚えていなかった。城の中では正面を向いて歩いていたが、視界に入った光景は、脳の中で記憶として結ばれそうもなかった。


 屋敷に戻ってから、マノンが心配そうに話しかけてきたが、ケイトリンは通り一遍の返事をして、早々にベッドにもぐりこんだ。


(どうして涙が出るのかしら)


 蝋燭の明かりが涙でにじんで見える。自分が世間から隔離されて育てられた何も知らない子供だということだけは理解できた気がして、ケイトリンは頭から布団をかぶった。


 その時、コンコンと何かが窓に当たるような物音がした。最初は気付かぬくらい小さく。それから風の音かしらと感じるほどの大きさで。しかし、それは風の音にしてはやけに規則的で、次第に大きくなるようだった。それでも顔を出さないでいると、今度は音の方が自分に近付いてきた。


(何かしら)


 さすがに少し妙だと思い、ケイトリンは、布団から頭を出した。


「なんで泣いているんだ?」


 予想外の人物が、自分の枕元に腕組みをして立っている。ケイトリンは、その男の名前を呼ぼうとしたが、あまりに驚いて声が出せない。


「なんだ。陸に上がった人魚姫のつもりか? 魚のように口をぱくぱくして」


「レ、レ、レイフ様!」