「うん? そうなのかい?」


 ファビアンは相槌を打ったが、さして興味がないのか手にした宝石から目を離さない。


「それで、その・・、そのこと自体、とてもショックだったのですが、それよりももっとショックなことが」


「なんだ。だったらちょうどよかったじゃないか!」
 

 ケイトリンの話を遮って、ファビアンは満面の笑みを浮かべる。


「叔母上の形見なら、さぞ高価な品だったのだろうけど、ここにある宝石だって、異国より取り寄せた素晴らしい品ばかりだ。なくしても良いようにたくさん買っておけばよいさ」


「いえ、あの、そうではなくて。私は」


「僕の妻となるわけだから、毎回同じ宝石を身につけているというわけにもいかないだろうし、一度つければ、誰かに下げ渡して新しいものを買えばいいよ」


 ケイトリンは、はいともいいえとも答えられず、俯いた。


 生まれたときから飢えることも寒さに震えることも知らないファビアンに、先日目にした貧民街の光景を、どうやって説明すればよいのだろう。自分だって、偶然迷い込まなければ一生知らずにいたかもしれない光景だ。


「あの、ファビアン様は、私たちの婚姻のためにかかる費用がどこから捻出されているか、ご存じですか?」


「どういう意味だい?」


「いえ、あの。あまり贅沢なことをすると、国家の財政が破たんしてしまうのではないかと思って」


「おや。結婚する前から国の心配かい? 未来の王妃になる心構えはさすがだね」


「いえ、王妃とか、そういったことではないのです」


 ケイトリンは、ファビアンの言葉に慌てて手を振って否定しながら、言葉を続けた。


「ただ、あまり重い税をかけると、民の暮らしが立ち行かなくなるのではないかと、そう思って」