ファビアンは大きな扉の前まで来ると立ち止まり、従者に合図をする。従者が扉を開くのが待ちきれないとばかりに半開きの扉に体をねじ込ませると、ケイトリンの腕をひっぱって室内に入った。


「まぁ!」


 ケイトリンは思わず声を上げた。部屋の中には、きらびやかな布地やたくさんの宝石が地面を埋め尽くすように並べられている。そのわきには、大勢の女性が頭を下げて座っており、商人たちがにこやかに微笑んでいた。


「これは、いったい・・」


「どうだい、驚いたかい? 君のために国中から集めた品々だよ。気に入ったものがあれば、どれでも君に贈るよ」


 ファビアンは中央に並べられた椅子に座ると、ケイトリンに横に座るよう促した。


「じゃあ、順番に見せてくれ」


「はい、かしこまりました」


 複数の商人がケイトリンの前に進み出ては、自分の持ってきた品物を広げ、いかにすばらしいかを述べていく。そのたびに、ファビアンが「どうかな?」と言いながら、ケイトリンの顔を覗き込んだ。


 ケイトリンは、素敵ですねと応じながらも、困惑していた。


 貧民街での暮らしを知ってから、自分の生活が贅沢なものであると認識しなんとかしたいと考えていた矢先の出来事だ。


「あ、あのファビアン様」


 ケイトリンは、小さな声でファビアンに呼びかける。


「なんだい? 気に入ったものがあった? なんなら、ここにあるものをすべて買うかい? 少々値が張るけど、大事な花嫁のためだから、父も許してくれるよ!」


「いえ、あのそうではなくて」


 ケイトリンは、慌てて首を横に振ると、ファビアンにそっと耳打ちした。


「実は、私、先日母の形見のペンダントをなくしてしまって」