「よ、呼べませんっ」


「ふーん」



そんな目で見ないでくださいよ!無理なもんは無理なんですからっ。


もうやだー。

逃げ場ないし。


せっかくいい感じだったのに。




いや、決して変なことは考えてないよ!?ないからね!





「はぁ、お前ほんとなんなの」



遂に呆れたのか、私から退いた部……専務は大きな息を吐きながらソファに深く腰掛けた。




なんなの、ってなんなの?


私のセリフでもあるんですけど。




やっぱりこの人苦手かもしれない。


かっこよすぎて。



なんで好きなんだろっ。

私、恋の仕方もバカになっちゃったのかな。



……名前呼んだら、そんなに嬉しいもんなのかな?




ヒロトっていうんだよね。


実際、何回か呼んでみたことはあるんだよ。

家でコッソリ。



当然そこまで恥ずかしくなかったけど、この場合は完全にアウトですよ。



ここで自殺してみろ、って言ってるようなもんですよ!?



これは自分の解釈なんだけどっ。




まさか、こうやって彼の名前を直接呼ぶなんて……。




「なぁ」

「っハイィ!」

「ぶはっ」



……笑われた。ちくしょう。

なんでいちいちドキドキしてしまうんだか。


分かってる。分かってるよ。鬼口陽人が大好きなことくらい。



呼ぶしかないのかな。

サラッと言ってしまえばこっちのもんだもんね!



よし。



今だにソファに沈めている体をゆっくり起こさせて、専務の横顔をみた。


手に力が入る。



そして、目が合った瞬間に口を開いた。








「陽人」