「何言ってんの?」
私は尽かさず聞くと、肘をついてトロンとさせた目で見ながら笑った。
そして彼女の口から出た言葉に絶句した。
まさに小悪魔だと思った瞬間だ。
『鬼口陽人』
心臓が止まった。かと思いきや勢いよく脈を打つ。
雅は思い切り顔を引きつらせていた。
その様子に悟った。
この子たちは気づいていたのかもしれないって。
「その人のこと好きですよね、美紅しゃん。私が初めてその話をしたとき、っ、すごい顔してましたよ~」
いろいろと突っかかりたいところだけど、その衝動をなんとか抑えた。
「その人転勤しちゃったんですよねぇ?想いは伝えたんですか?それとも、諦めたとか?」
……真奈ちゃん容赦ないな。お酒のチカラって怖いね。
私は小さく息を吐いた。
ここで怒っても意味無いし、それにこの子明日には忘れていると思うから。
雅は暗い声で「ごめんね」なんて言うから、つい可笑しくて笑ってしまった。
「いーよー。もう終わったことだし。それに……ね?」
「あ……」
2人で一つの場所を見て笑った。
真奈ちゃんは心地よさそうにテーブルに伏せていたから。ビールジョッキを持ったまま。