息を整えてから2回ノックさせた。
中から抑揚のない返事が返される。
ドアノブを握った手が震えてた。
「……失礼します」
中へ入ると背中を向けて立っている部長の手が止まった。
ディスクの上にはたくさんの資料と大きなダンボールが見えた。
手に持っているのはそれをダンボール箱へ入れようとしてるものだろう。
その様子に、胸が張り裂けそうになった。
それはなぜ?
そう思うより先に口が勝手に開いていた。
「異動、するんですね。聞きましたさっき。みんなには言ったんですか?それとも言わずに行こうとしたんですか?」
「……は?」
「部長はずるいです。何考えてるか私にはさっぱりです。異動するならちゃんと部長の口から聞きたかった……っ」
何、言ってるんだろっ。こんなこと言うつもりで来たんじゃないのに。
それでもそんな勝手な部長が嫌いで、次々と私の思いが放たれる。
「どこに行っちゃうんですか?それは私のせいですか?!私が、仁田くんとお昼食べるから?いいじゃないですかっお昼ぐらい!部長だってたまーに、茜先輩とか他の女の人と、食べてるじゃないですか!私っ、知ってるんですからねっ」
息をのんだ。
いや、正確には息を止めた、だ。
ち、近いっ!
いつの間に!
って目をつぶってたからほんと〝いつの間に〟なんだけど。
見上げれば鋭い視線と絡み合う。
ドキリとした。
だって、こんな間近で部長を見たのは久しぶりだったから。
それに。
「話は終わった?」
首を傾げる仕草に不覚にもキュンしたなんて言いたくも思いたくもない。