何を言っているんだと思った。本気で頭を疑った。
何1つ光すらないこの場所が好きだなんて馬鹿みたいだ。
「あなたは泳ごうとしない。自由を取り戻そうともしない。憶測ばかりで怖がって、覚悟を決めたこともないんでしょう。だから弱いの。」
彼女の言葉に、グッと拳を握るけれどそれ以上何も言えなくて唇を噛み締めた。
「目を瞑って、ただ流されて。自分の意思を示そうともしない。行きたい場所があるなら行けばいいじゃない、辿り着かなくても必死で泳げばいいじゃない。…あなたは目を開こうともしない。だから、水中の景色を見れないのよ。」
凜とした声がどんどんどんどん僕のいる水中へと飛び込んでくる。
水しぶきを立てて、ここが上だと言うように白い泡が僕を誘おうとする。
だけど、無理だ、無理だ。自分に光が当たるか分からない。
目をしっかりと開けて水中の景色を見て、もしそこに何もなかったら僕はどうすればいいんだ。
「怖がってたら始まらないの!自分に言い訳をするのはやめて、目を開ければいい。」
「やめろ!」
耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。
駅はすぐ近くて人通りも多いけれど気にできなかった。
そんな僕を見て、彼女が呟く。
「あなたは何もできない水中になんていない。…泳げる、きっと。」
その言葉に顔をあげれば、赤い傘を上にあげて歩き出す彼女が見えた。
ぶくぶくぶくぶく。音が聞こえる。
空気の塊が不安定な形をした泡を作って僕から放たれる。
その瞬間、僕の周りを優雅に泳ぐレナを見つけた。
…ああ、そうか。
こんな水中が好きだなんて、そんなに自在に泳げるなんて。
もしかしたら、君は人魚かもしれない。