「あれ……優梨さん?」
コンビニで雑誌コーナーを眺めていたら、突然顔を覗き込まれてぎょっとした。
やけに身長が高くて、キラキラした瞳の青年が、コンビニの袋をぶら下げて立っている。
私は訝しげな表情で、その見覚えのない青年を眺める。スウェットと、ビーチサンダルというラフ過ぎる格好。奇抜なシルバーアッシュの髪。
こんな男と知り合った覚えはない。
「誰ですか」
「雨宮です。覚えてないですか?以前、カットモデルの依頼させてもらった者なんですけど……」
どこか寂しそうな表情に変わる青年をみて、若干の申し訳なさを感じながら、お酒の残った脳内で思考を巡らす。
カットモデル……?
「あぁ、あのときの美容師さん?」
「そうです!」
やっと、記憶が一致する。
2ヶ月程前、ハヤトの部屋から帰るときに、ここのコンビニで買い物してたら、声を掛けられたんだ。この人に。
--カットモデルになってくれませんか!?
--……は?
--僕、美容師やってて、すぐそこのヘアサロンなんです。あ、まだ見習いなんですけど。無料でカット、カラー、パーマ、全部しますから、是非!
--はぁ……結構です。
--いつでも良いですから、気が向いたら電話してください!
それで、無理やり名刺を渡されたんだっけ。
後日、カットとパーマとカラーのフルコースに付き合って、猛烈に疲れたってことだけは覚えてる。
あのときの美容師さん、こんなに可愛いカオしてたっけ?
髪色が変わったからか、全然印象が違う。
「その節は、どうもありがとうございました! その後どんな感じですか?」
ぐりぐりとした丸い目は、好奇心旺盛な子供みたいな輝きを放っている。
私は重たい紙袋を一旦床に置いて、鎖骨まで伸びた自分の髪を触りながら、「ええ、この有様です」と答えた。
パーマはまだ残っているけど、中途半端なうねりヘアーに変貌していて、毎朝ひどいイラつきを感じているところだ。