子犬男子に懐かれました



優也くんとはあれから、家まで送ってもらい、来週またデートする約束をして別れた。


「はぁ……なんか疲れた」


お風呂でも入ろうとした時だった、


ーーピンポーン

とインターホンが鳴る。

だけど、出る気にはならなかった。

なんとなく…壮介くんな気がしたから、居留守を使った。


「皐ちゃん、開けてよ」
と、ドア越しに聞こえてきた。


……。


「お願い、開けて」


「………やだよ、帰って」


ドアを閉めたまま、ドアの向こう側にいる壮介くんに言った。


「怒ってんの?」


「当たり前でしょ」


「映画館で、皐ちゃんの家に行くって優也さんの前で言ったから?」


「分かってるなら何で言ったのよ」


むかつく

わざと言ったって事じゃん






「皐ちゃんはさ、優也さんの事が好きなの?」


……好きではない。

けど、

「これから知っていきたいと思ってる人だよ」

これから、ゆっくりとーー。


「皐ちゃん、ちゃんと謝るから…だからドア開けてくんない?」


”ちゃんと謝るから”ーー。
そんな言葉に、私は勝手にドアを開けていた。


ーーガチャ

ドアを開けると、真剣な顔して立っている壮介くんがいた。


「皐ちゃん…っ」



ーーえ?

謝ってくるのかと思ったら、私を強く抱きしめてきた。





「……好きだなんて言わないで」


「え?」


私の耳元で掠れた声で言う。


「優也さんの事、好きだなんてお願いだから言わないで」


「何…言ってんの?」


意味が分からない

何で抱き締めてるのかも、優也くんの事好きにならないでって言ってるのも全部意味が分からないーー。

だって……


「壮介くんは花ちゃんが好きなんでしょう?」


「……え?」


「好きな人がいるくせに、私をからかって遊ばないでくれる?」


「え……何言って「出てって。もう家に来ないでよ!?」


壮介くんの腕を払って、無理矢理家から出した。


「意味分かんないよ……」


私の目からは一粒、涙が流れていた。




「わ、あんた何その顔」


最悪

壮介くんのせいで、顔は浮腫み、さらに目は腫れている。


「皐何かあった?」

珍しく香が優しい

心配してくれるのはありがたいし、今すぐ相談したい、けど…


「んー、何もないんだけど昨日泣ける映画見ながらお酒飲んだらこの様よ」


「ウケるんだけど。ちょっとでも心配したあたしがバカだったわ」


うう…ごめん、香

さすがに高校生の男の子の事で悩んでこんなんになってる。だなんて言えやしない


「優也くんと何かあったんじゃないかと思った」


「あー…優也くんとは別に変わらず何もないよ」


「へ?あれから進展なし?」


「別にない」


気を使わせて、解散したっきり。

遊ぶ予定はあるけど…次どうやった感じで会おうか……いつも通り会えるのかな……とか、考えてしまう。





仕事も終わり、暇つぶしにTSUT○YAに来ていた。

久々に韓ドラぶっ通しで見ようかな


キャラでもない韓ドラを一気に抜き、手にDVDが沢山重なる。



「へー、韓ドラも見るんだ〜」


横から聞き覚えのある声がし、反射的に物凄い勢いで振り向く。


「皐ちゃんいい反応するね〜

家に行ったらいなかったからコンビニ行ったんだけど、コンビニにもいなかったから前にTSUT○YAに出没してるって言ってたから来た」


と笑顔の壮介くんがそこにいた。


「何でいるの?」


意味分かんないんですけど

昨日あんな感じで別れたのに、ケロッと私に会えるなんてどんな神経してんの。


「皐ちゃんに会いに来た」


「あっそう」


私が歩くと、壮介くんも歩く。





「皐ちゃん、今日目腫れてない?」

そう言われ、ピタリと歩く足を止めた。


「皐ちゃん泣いたの?」


泣いたよ

あんたが原因でね

わけわかんない行動ばっかとるあんたにムカついて泣いたよ。


「まだ腫れてる?」


「やっぱり泣いたんじゃん」


「だったら?
もう帰るから壮介くんも帰りな」

また壮介くんといると、訳わかんなくなって泣けてきそう。


そんな事を思いながらお店を出ると、壮介くんに腕を掴まれる。


「なにっ?!」


「ちょっと寄り道しようぜ」


「は?ちょっと…っ」


グイグイと腕を引かれ、完全に壮介くんのペースだ。




着いた先は、近所の公園だった。


「皐ちゃんそこ座って」


と、壮介くんが指さしたのは公園にあるブランコだ。

私は素直に座った


すると壮介くんは私が座るブランコの鎖を持つ。

なにこの……壁じゃないけど壁ドンみたいな状態。


「なにする気?」


「キスする気」


はーーっ!


「バカじゃないのっ?!」

そんな私の反応を見て、ニヤニヤする壮介くん。


「皐ちゃん顔真っ赤になって可愛い」


……なっ、


「大人をバカにしないで」


17歳の男の子に何顔を赤くしてるんだ……自分でも分かる、相当顔が熱い。






「大人大人って、俺だってそんなガキじゃねーし男舐めないでくれる?」


そう言って、私に顔を近づける


「か、からかってんのっ?!」


慌てて顔を反らした


「皐ちゃん」

そう声を掛けられ、壮介くんの方に顔を戻すと

「これあげるから元気だして」


目の前には、チョコレート。

だけど、壮介くんがいつも花ちゃんの為に買ってるチョコではない。


「いつもと違うじゃん…」


「うん、皐ちゃんはこっちの方が美味しいって言うかと思って」


おかしい

何でこんなに嬉しいって思っちゃうんだろう。

”花ちゃんと違う”ーー、
違うっていうだけで、何故か嬉しく感じる。


「私の事を考えて買ったんだ」


「当たり前。ど?美味いでしょ」


…ズルいな、壮介くんは


「うん…凄く美味しい」


口に広がる甘さと、少しだけほろ苦いビターチョコレート。




私がそう言うと、子犬のような笑顔を向ける壮介くん。


……

私は立ち上がり、


くしゃ っと ふわふわな壮介くんの髪を可愛い子犬のように撫でた。


「え……皐ちゃん」


壮介くんなりに私を励まそうとしてくれたのが分かった。

相変わらず、分からない事だらけだけど……


「ありがとう。ほら、もう帰るよ」


「……」


「壮介くん?」


「皐ちゃんっ、送ってく」


ガキのくせに

でも

「お願いしようかな」


「え……どうしたの皐ちゃん…チョコに変な成分混じってたのかな…」


「なに言ってんの」

そう言って私は壮介くんの横に並んで歩いた。