朝起きて、スーツを着ていざ仕事へ。
職業は保険の営業をしている。
こんな私が営業なんて……友人にもバカにされたほどだ。
「さっちゃんには無理無理!ただでさえ話し下手なのに」と。
何故入社したのだろう、理由は……お金?
私の家はあまり裕福ではない
母は離婚していて妹と私の3人暮らし。
母は昼間はパートに出ていて、夜は清掃の仕事に入っている。
そんな姿を見ているせいか、就職先は稼げる所がいいと前から考えていた。
で、営業に至った。
友人には無理だ。って言われたけど、実際やってみなければ分からない。
もしかしたらできるのかもしれない。
「いいよいいよ、うちもう保険には入ってるから」
「5分だけでもお話しを…っ」
「だからいいってば、しつこいな」
無理矢理ドアを閉められる。
現実はそう甘くない。
……また断られた
毎日が勉強だし、ストレスフリーになりたくてなりたくてしょうがない。
社会人舐めてた
こういう時って必ず大学に戻りたくなるんだよね……
あんなに就職早くして仕事したい!なんて思ってたのにさ。
「あ、さっちゃんおかえり。新契約のお客様どうだった?」
上司が昔から言われ馴染みのあるあだ名で呼ぶ。
「すいません、ダメでした。今度一緒に同行お願いできますか?」
「そっか、分かったわ」
やっと1人立ちできたかなー、って思ったのにな……
まだまだ上司のいい所盗んでいかないとダメだな。
「あっ、皐今日空いてる?」
と私のデスクにやってきたのは一緒に入社した同期の香 (かおり)。
「空いてるけど…何かあんの?」
「んー?合コンどお?」
自慢のロングの髪を触りながら言う香。
「いい、パス」
「何でよ〜!皐今彼氏いないんでしょう?行こうよ〜!」
「いないけど…そうゆうの苦手だから行かない」
わいわい騒いだり、二次会とかでどうせカラオケとかに行くんでしょ?
疲れるだけだし。
「ったく、だから彼氏できないんだよ皐はー!せっかくの出会いかもしれないんだよ?」
「別に彼氏なんて欲しくないし」
「けっ、冷たい女」
……なっ、
なにあれ、腹立つなぁ……
「んもう、じゃあ行くよ!行けばいいんでしょ!行けば」
もういい
どうにでもなっちゃえ
合コンじゃなくて、飲み会。そう、そう思えばいいんだよ。
出会いなんていらない
彼氏なんかもいらない
私はずっと1人でも平気だーー。
……やっぱり。
「はいっ、じゃー次香ちゃん歌って」
只今、二次会
やっぱりカラオケだった。
香は呑気に歌ってるし…華金だからってお酒飲み過ぎだよ、あれ。
「ねぇねぇ」
すると突然右にいた男に話しかけられた。
見た目は……爽やかな感じ?
「ずっと話したくってさ、さっちゃん。って呼べばいいんだよね?」
「は、はい…」
香のヤツが自己紹介で、
「この子の事は、さっちゃん♡って呼んであげてね♡」
なんて言うものだから…
何かいきなり初対面の、しかも異性にさっちゃんってなんか…馴れ馴れしくて嫌な感じする。
「大丈夫?楽しくない?」
え……っ、あたしってそんなに顔に出てるの?
ええ、楽しくないです。なんて、言えるわけがない!
「ううん、楽しいよ」
「なんだ、表情が暗いから楽しくないのかと思ったよ」
そう言って男は私の太ももに手を置いた。
「は…?」
これは何ーー?
私が振り向いて目で訴えてるのに、普通に隣の男子と話してるし!
何これ何これ…っ、合コンってこんな感じだった?
「ちょ、っと…お手洗いに」
私はその場から逃げ出した。
もうこのまま帰ろう
香にはちゃんと後でLINEしておけば大丈夫だよね…
と、その時だった。
ーーーードンッ
「……いてぇ」
あっ、やばい。思いっきり人にぶつかってしまった。
「すいません…っ」
「いえ…」
また、私はすぐその場から立ち去った。
制服着てたし高校生かな
ぶつかった男の子もとてつもなく暗い顔してたな……。
私も22歳なんだし、こんな太ももに手置かれたくらいで動揺しなくてもいいのにーー、
まだまだ恋愛に置いてもダメダメだ。
仕事もプライベートも上手くいってないって最悪じゃん。
「もう嫌」
考えるのを辞めよう。
帰りにコンビニ寄ってアイスでも買って帰ろうっと。
「あ……早」
あの最悪な合コンから数日、私はいつもと違い目覚めるが早すぎた。
二度寝もいいけど…
あたしって二度寝すると必ず遅刻するからここは早めに出勤しよう。
いつものように、着替え朝ごはんを簡単に済ませ車に乗り込む。
いつも通りの道
いつも通りの日々。
今日は上司に同行してもらうから新契約取れたらいいんだけどな…
なんて思っていると、
「あれ?」
道の端に座り込んでいる男の子がいる
制服着てるし高校生?
私はハザードをたいて、車を端に止めた。
何故だろう、放っておけばいいのに
昔からそうだ。
困ってる人をスルーしたりすると誰かに見られてる気がして…
”あ、この人スルーした”
なんてね。
こんなのただの被害妄想に過ぎない。
「ねぇ、大丈夫?」
うずくまってる男の子に声をかけるが返事はなし。
「どこか痛むなら、私車乗ってきたし送ってあげようか?」
同じようにその場にしゃがみ込む。