子犬男子に懐かれました



壮介くんの”忘れたい人”って誰なんだろうーー?

って……別に私が気にする事でもないし。



明日のアラーム設定しようと携帯画面を開けると、一件のメッセージが届いていた。

【優也くん】からだ。


【今日はありがとう!
本当に楽しかったよ(^ ^)
次またどこに行くか決めとくね】


本当に印象違ったな…人って初対面では分からないって事が今日分かったよ。


さてと、お風呂入って寝よう。

私も遅刻しないようにしないと…



今日はいつもより30分早めにアラームを設定した。




朝から最悪です。


目の前には、香氏。はい、昨日のデートについて事情聴取中です。


「優也くんとどうだったのよ」


う…香、怖いっす…


「どうもこうも別に何もなかったよ。ランチしてお喋りして帰っただけ」


「ちぇっ、つまんないの〜。何か進展あるのかと思ったのに」


いやいや、そんな早く進展するわけないでしょう。


「まぁ…具体的に日にちは決めてないけど、次また会う約束はした」


「へ?まぢで?なになにいい感じじゃーん!あんなに嫌がってたのにどうしちゃったの?」


「んー、別に悪い人ではないって事が分かったからかな」


見た目通り爽やかで、チャラい感じもなかったし…


「ほらね?一回会ってみるべきだったのよ!あたしは応援してるからねっ」


「いいよ、困る。それより自分の恋愛でも心配したら?」


「あたしはいーの。適度にフラフラ遊んでる方が楽だから」


本当にこの人は……チャラすぎる。




「あ、さっちゃん。あたし急用ができちゃて、既契約さんの所お願いしたいんだけど大丈夫かな?」


「あ、はい!行ってきます」


1人の上司のお子さんが熱を出したみたいで、私が変わりに行くことになった。

資料を持ち、お客様の所へ車を走らせる。


「やっぱり、この辺私の家の近くだ」


お客様の”一ノ瀬さん”はずいぶん私の今の1人暮らしの家と近い所に住んでみえてる。


ピンポーン

とインターホンを鳴らすと、明るい声が聞こえた。


「あっ、私〇〇生命の高倉皐といいます。本日〇〇さんの変わりにお伺いしました。」


そう言って出て見えたのはすごく綺麗な奥様だった。


「どうも、初めまして。わざわざありがとうございます〜」


随分明るい奥様だなぁ…




「どうぞ、上がって下さい」


「お邪魔します」


上司のお客様であってなんだかものすごく緊張するな……

お茶を渡され、一口頂く。


「高倉さん、お若いのねおいくつなのかしら?」


「22歳です。まだ入社1年目なんです、なのでご迷惑おかけするかもしれませんがどうぞよろしくお願い致します」


「まぁ、素晴らしいわっ、私の娘も17だからそんなに変わらないわねっ」


「いやいや、5歳も違うとさすがに変わりますよ」


壮介くんと同い年の娘さんがいらしてるんだ。

さすがにこれまた妹感覚になってしまいそうだ。




「あれ?お母さんお客さん?」


すると、二階から降りてきたのは、


「そうなの、保険屋さんよ。ほら挨拶しなさい」


「初めまして。一ノ瀬花です」


あ……れ、見た事あるーー。


………は!


「花ちゃん…私、あなたをお見かけした事があります」


「へ?」


っと、さすがにびっくりするよね。


「すいません、自己紹介もなしに…。私〇〇生命の高倉皐と申します」


「はい、よろしくお願いします。あの、あたしを見た事あるんですか?」


「はい。壮介くんと歩いてる姿を以前…ってことは、花ちゃん壮介くんの幼なじみですか?」


絶対そうだ!このお人形さんのような可愛い顔!印象的だったし絶対この子。

奥様さっき、娘17歳って言ってたし


「高倉さん、壮ちゃん知ってるんですか?!え!何で何で?!」


やっぱり!なにこの偶然。

これは、壮介くんに報告したらびっくりするだろうな。


「うん、壮介くんとはちょっとした知り合いでね。幼なじみの女の子の話しを少し聞いてたんだ」


「そうなんですね!壮ちゃん最近ここに引っ越してきて、あたしも小学生ぶりに会ったんですよ?」

と、言い私に「どうぞ」とチョコレートを差し出した。




あ…このチョコレート…

前に壮介くんとコンビニで会った時に大量に壮介くんが買ってたチョコ。


「もしかしてそれ…壮介くんが?」


「え?何で分かったんですか?

実は……そうなんです。あたしがチョコ好きなの知ってて大量に買ってくるんです」


そっか……

その話しを聞いて一瞬で理解した。


壮介くんは、花ちゃんの事が好きなんだねーー。


好きな人がいるくせに、何で私と会うんだろう。だったら幼なじみで家も近い大好きな花ちゃんに会えばいいのに。

また、疑問ができた。

壮介くんがよく分からない。
私と会って忘れたい人が忘れられるーー?

本当にその役目って私なのかな?


目の前にいる、この子じゃないのーー?




その夜、仕事が終わり1人テレビを見ているとーー、


ーーピンポーン

珍しく家のインターホンが鳴った。


…え、私宅配頼んでないし、友達も来るはずなにのに誰ーー?

と思いながら恐る恐る穴を覗いてみた。


「ーーーはっっ?!」


と、そこにはニッコリ笑っている壮介くんが立っていた。

急いでドアを開けた。


「待って何でいるの?!」


「家知ってるし。会いたくなっちゃったから会いにきた」


「いや連絡してよ」


「だって近いんだし、別にいいじゃん。皐ちゃんどうせ暇してるんでしょ?」


「失礼な……」


「ってことでお邪魔しまーす」


……はっ!?




私は勢いよく、壮介くんの腕を掴み自分の元へと引き寄せる。


「おおっ、積極的だね皐ちゃん」


「バカなの?」


「いや?正常だけど?」


「いくらなんでも部屋はちょっとおかしくない?昨日みたいに公園とかさ」


さすがにいくらなんでも高校生でも男の子は男の子だ。

……男は、狼と香に教わった。


「大丈夫。俺何もしないから」


そう言われ、壮介くんの腕を掴んでいた手が緩んだ。

…私ってこんな簡単な女だったっけ?


壮介くんはノコノコと部屋に入り、ソファー座って呑気にテレビ見てるし。


なに簡単に部屋に入れてるのよ……


「ねぇねぇ皐ちゃん、これめっちゃおもろいよ!早く来て一緒に見ようよ」


ギャハハ と爆笑している。


……弟を持つとこんな感じ?

何か可愛く見えてきた。




「壮介くん、そういえば壮介くんの幼なじみと喋ったよ、花ちゃん」


私がそう言うと「え?」と驚いてテレビに向けていた視線を私に向けた。


「私の所の会社のお客様だったの。上司の代わり行ったらそこのお客様が一ノ瀬さんだったの。」


「へ、へぇ〜凄い偶然」


「でしょ?花ちゃんも凄いビックリしてたよ。で、壮介くんが買ってたチョコも頂いたの。仲良しなんだね2人」


ここは敢えて、好きなんでしょ?とは言わなかった。


「まぁ幼なじみだからな!あのチョコ美味いだろ?今度皐ちゃんもお酒と一緒に買った方がいいよ、おっさんみたいなおつまみじゃなくてさ」


「あんたも20歳過ぎたらあの美味しさに気付く時がくるわ!バカ」


そう言って壮介くんの頭をパシッ と軽く叩く。


「しかも、お酒に1番合うんだから」


「じゃあお酒ちょーだいっ」


また頭を軽く叩く。


「いってー、皐ちゃん馬鹿力」


「うるさい!ガキがお酒を飲むんじゃない。20歳過ぎてかーら」


「んな、ガキガキ言うなよなー」


「私から見たらガキですー」


そう言うとフイッ と顔を反らす。

……あ、拗ねた。


こういうところがガキだってば。


そんな姿を見て。思わず笑みが溢れていた。