と、歩いて来たものの…
壮介くんはきっと家にいるだろうし、今会いに行っても迷惑だ。
…困った。
そんな時だったーー、
「皐ちゃん」
……え、
そこには私の家の前に立っていた壮介くんの姿だった。
「何してんの、もしかしてずっとそこにいたの?」
「うん…だって皐ちゃんとちゃんと話したかったから」
そして壮介くんが私に近づき、肩に頭を乗せた。
「……寒かったー」
そっと腕を背中にまわすと、その背中はひんやりとしていた。
「バカじゃないの、こんな寒い中待ってるなんて…風邪引いたらどうすんの?」
「どうしようね、皐ちゃんのせい」
「もういい、早くこっち」
壮介くんの腕を引き、家に入れた。
「連絡してくれればよかったのに」
「してたとしてもさっきの様子の皐ちゃんじゃ、無視してたでしょ」
お風呂に上がり、タオルで髪の毛をわさわさと拭きながら言う。
「……あの、」
「うん、皐ちゃん…ちゃんと言ってくれなきゃ俺分かんない」
「うん…」
正直、怖くて言えない。
やっぱり花ちゃんが好きなんだ、とか言い出したらどうしよう。
私がずっと黙っているとーー、
「花の事?」
「……へ?」
あまりにもドンピシャで当てにきたので変な声が出てしまった。
「やっぱり…皐ちゃんなんか勘違いしてない?」
「か、勘違い?」
「うん、言ってみ?」
5歳も下の男の子なのに、その表情はすごく大人のような余裕があるように見えた。
もういい、ここまできちゃったなら言っちゃえ!
嫌われてもいい!
「壮介くんは花ちゃんの事がやっぱり好きなんじゃないの?」
「は?」
目を大きくしてびっくりしている。
「だって…花ちゃんと一緒にいた男の子を見て悲しい顔してた…」
あの目は確かに悲しい目をしていた。
「………ぷ」
…は?
「え、何で笑うのよ」
ははは と笑う壮介くん。
え、ちょっと本当に意味が分からない。
「違うよ皐ちゃん。
確かに俺、小さい頃からずっと花の事が好きだったんだ。ずーっと」
壮介くんは淡々と話し出した。
「幼なじみの花しか見てこなかった。俺が親の転勤で引っ越さなきゃいけなくなった時、”大きくなったら必ず戻ってくる”って花と約束したんだ。
告白もしようとしたけど…できなかったんだ、小学生の時」
「……うん」
「そんでさ、大きくなって約束通り会いに来たらさ……瀧悠人っていう地味男の彼氏ができてたわけ」
「じ、地味男って…」
「まっ、隠れイケメンなんだけどね、それがまぁいい男なんだよ。
花もさ、小学生の頃俺の事好きだったし大きくなったら必ず戻ってくる事信じて待ってた。とか言ってさ……、なのに俺より大好きな奴ができてたんだ、花には」
じゃあやっぱりさっきの男の子は花ちゃんの彼氏だったんだ。
それと…、壮介くんはすごく、すごく、花ちゃんの事が好きだったんだ。
そう思うと胸が苦しくて、
苦しくて、
痛いし辛いーー。
「それで忘れようとしてた時に、皐ちゃんに会ったんだ、道端でね」
「変な事言ってたよね、胸が苦しいとかなんとか……」
「うん。本当に苦しかったんだ、俺が歩くずっと先に花と瀧が歩いてんだからさ」
「よっぽど好きだったんだね、花ちゃんの事……」
やばい、
このままじゃ涙が溢れ出そう。
「皐ちゃん、最後まで聞いて?」
「……」
「公園でさ、俺皐ちゃんに忘れたい人がいて皐ちゃんといると忘れられるって言ったでしょ?
あれ、花の事なんだ……、ごめん。あの時は皐ちゃんを使っちゃったのかもしれない」
……なん、だーー。
やっぱりな。
私はただ、花ちゃんの事を忘れる為に利用されただけ。
「だけど、変わったんだ」
「何がよ…、私を利用したんでしょう?私の事好きだ、とか意味が分からない!今でも花ちゃんの事諦められてないんじゃないの?」
だったらあんな表情で花ちゃんの事見つめたりしないよーー。
「違うあの時は俺、やっと2人の事を”お似合いだな” ”幸せになって欲しいな”って思えるようになったんだ。
そんな事を思って2人を見つめてたんだ………何でやっとそう思えるようになったと思う?」
ゆっくりと私が座る目の前の床に座り、太ももに置いていた手を握りしめた。
「皐ちゃんの事が大好きだから」
「……っ、」
「皐ちゃんの事本気で好きなんだ。勘違いしないで…皐ちゃんだけ」
「……ほ、本当なの?
だって、あんなに一途に花ちゃんの事好きだったんじゃないの?」
「皐ちゃんが俺を変えた。
毎日会うたびに、早く会いたい…皐ちゃん何してるなかな…怒られてもいいから家に行こう、とか。
皐ちゃんばっかり考えるようになって……優也くんとデート行くたび嫉妬でどうにかなりそうだった」
ははっ と笑う壮介くん。
「……壮介くん」
「ん?」
私、その気持ち信じてもいいんだよね?
「私、年上だよ?」
「知ってるけど」
「壮介くんよりおばさんだよ?」
「だから、そんな変わらないって」
「ピチピチじゃない…」
「皐ちゃん」
「不安すぎる」
「それ以上ネガティブ発言すると、キスするよ?」
ーーーーっ?!!
なっ、何を…っ、
「信じてついてきて。
俺は皐ちゃんが好きです。
付き合って下さい、大事にします」
目の前で右手を差し出す壮介くん。
なんか…よくテレビで見るお見合い大作戦の告白シーンみたい。
「なー、何笑ってんの?
早く返事聞かせて、俺よく考えたら花火大会から結構待った」
ふっ と微かな笑いを壮介くんは見逃さなかった。
「遅くなってごめんね。
あと、全部気持ちいいくらい話してくれてありがとう」
私はギュッ と差し出す壮介くんの手を握った。
「私も壮介くんが好きです」
すると、グイッとそのまま壮介くんの胸元へ引き寄せられる。
「わっ……!」
ぎゅーっと強く抱きしめられる。
「はぁー、やっと皐ちゃんが俺の彼女になったー」
「苦しい…」
「本当に好き」
耳元で聞く大好きな人の甘い囁きにどうにかなりそう……。