「ゆ、優也くん……」
びっくりして振り返ると心配そうにこちらを見ている。
「何かあった?」
「ううん、別に何もないよ」
「そっか、何かあったらすぐ言ってね。俺に出来ることあれば協力する」
……私、優也くんの事好きになれればよかったのかな、
きっと優也くんの彼女になる人は幸せにしてくれるんだろうな、
とか、ついつい考えてしまっていた。
だけど…
「優也くん………あのね、」
「待って」
優也くんは私の両肩を自分の手で掴んだ。
「どうし…たの……?」
「どうしても、俺じゃダメなの?」
……え?
「少しでも可能性ない?」
「優也くん……」
優也くんは、私が優也くんの告白を断る事を知っているみたいだった。
「俺、本当に好きなんだ…さっちゃんのことが」
優也くん……
だけど、
「ごめんなさい…」
私はやっぱり……壮介くんが好き。
「ごめんなさい………私…っ、好きな人がいるの」
私がそう言うと、私の肩を掴んでいた腕がスルリと落ちた。
「……好きな人いたのに俺とデートしてたの?さっちゃん」
え……っ、
「ち、違う…っ!
それは本当に違うの……ちゃんと、優也くんと出かけたくてデートしてた」
最初は嫌だった、だけどいい人だって分かってちゃんと知ろうとした。
「ってことは、同時期に現れた男にさっちゃんの心もってかれた感じ?」
「……っ、」
私がしばらく黙っていると、
「そっか……うん…」
ずっと下を向いていて、
空気が凄く重たい。
「それってさ、映画館にいた子?」
「え?」
なんで…
壮介くんの事は弟みたいな感じっていうので上手く誤魔化せたはずなのに。
「バレバレ。
壮介くん、俺に対してバチバチな目で睨んできたし敵対心強すぎるよ」
「………」
「はぁー、好きだったのになー」
凄く大きなため息をついて、伸びをする優也くん。
「……ごめんなさい。返事伸ばしておいて本当に…ごめんなさい」
私は優也くんに向かって、深く頭を下げた。
「…さっちゃん、いいよ」
優也くんはそっと私の肩に手を置いた。
「さっちゃんが好きになった人なんだ。いい子に決まってる。」
「優也くん…そうかな…」
「そうだよ、まぁ…壮介くんがさっちゃんの事幸せにしなかったら俺がすぐ奪いに行くけどね」
そう言ってニコっと笑った。
どうだろう……
今、壮介くんと会っても何て話したらいいか分からない。
「さっちゃん、いつまでここにいるの?早く会いに行きなよ」
「え……でも…」
「俺が辛いんだけど」
と言い、ははは と笑う優也くん。
「ごめん…」
だけど、私は謝る事しかできなくて…
「あ、でもこれから友達とかは無理だからね。しばらく時間ちょうだい」
「優也くん…」
「だからもう終わりっ、早く行って」
わざと、私が行きやすいように笑いながら手をシッシッ と私に向かって払う。
「ありがとう、優也くん」
「うん」
「じゃあ……行くね」
「うん…」
私は優也くんに背を向け、歩く。
……ごめんなさい、優也くん。
そして、今までありがとうーー。
と、歩いて来たものの…
壮介くんはきっと家にいるだろうし、今会いに行っても迷惑だ。
…困った。
そんな時だったーー、
「皐ちゃん」
……え、
そこには私の家の前に立っていた壮介くんの姿だった。
「何してんの、もしかしてずっとそこにいたの?」
「うん…だって皐ちゃんとちゃんと話したかったから」
そして壮介くんが私に近づき、肩に頭を乗せた。
「……寒かったー」
そっと腕を背中にまわすと、その背中はひんやりとしていた。
「バカじゃないの、こんな寒い中待ってるなんて…風邪引いたらどうすんの?」
「どうしようね、皐ちゃんのせい」
「もういい、早くこっち」
壮介くんの腕を引き、家に入れた。
「連絡してくれればよかったのに」
「してたとしてもさっきの様子の皐ちゃんじゃ、無視してたでしょ」
お風呂に上がり、タオルで髪の毛をわさわさと拭きながら言う。
「……あの、」
「うん、皐ちゃん…ちゃんと言ってくれなきゃ俺分かんない」
「うん…」
正直、怖くて言えない。
やっぱり花ちゃんが好きなんだ、とか言い出したらどうしよう。
私がずっと黙っているとーー、
「花の事?」
「……へ?」
あまりにもドンピシャで当てにきたので変な声が出てしまった。
「やっぱり…皐ちゃんなんか勘違いしてない?」
「か、勘違い?」
「うん、言ってみ?」
5歳も下の男の子なのに、その表情はすごく大人のような余裕があるように見えた。