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……
…
私は本日もいつも通り、仕事をしていた。
だんだんと暑くなってきた日々。
壮介くんは相変わらず家にやってくるが、いつも通りな感じ。
……告白してきたくせに…
優也くんとは全く。
連絡もなければ、会ってもいない。
「外回り行ってきます」
「「はーい」」
上司や香に見送られ、いつも通り外回りへ出る。
確か……今日のお客さん、少し難しい人なんだよな……
1回も会った事なくて、電話で少しお話しした時にも少し怒ってみえたし…
でもそろそろ保険見直した方がいいと思うから直接家に行くけど…
少しばかりか、かなり緊張する。
恐る恐る……インターホンを鳴らす。
ーーピンポーン
何回も鳴らすが、出ない。
留守…?それとも居留守…?
その場でしばらく立っているとーー、
「あなた、どちら様?」
50代の女性がそこにはいた。
……は!もしかしてっ…
「あの、私〇〇生命の…っ「帰ってちょうだい」
……あ、やっぱり。
電話通り難しいお客さんだった。
「あの、少しだけでもお時間いただけないでしょうか?」
「帰ってちょうだいって言ってるのが聞こえないの?! いい迷惑なのよ、ほんとしつこいわね」
「……ですがっ、」
「保険には仕方なく入ってるだけよ!あんた達が押しにくるからねっ、すぐ解約するからほら消えて」
……っ、あまりにもひどい言葉に、何も言えなくなってしまった。
「2度と来ないで!!!!」
最後にそう叫ばれ、ドアを閉められた。
……あれ、おかしいな、私鉄のメンタルだったはずなのにーー、
ツー っと一滴涙が流れてくのが自分でも分かった。
こんな事で泣いてたら、営業員失格だよ………。
「う…、悔しい…」
ここまで怒鳴られた事がなかった為か涙が止まらない。
ダメ、こんなんじゃダメっ、泣いてたらダメなのに……っ、
すると、誰かに肩を ポン と優しく叩かれた。
ゆっくり振り向くと、そこには優しそうなおばあちゃんが立っていた。
「泣かないで、これあげるから」
と、私にいちご味の飴をくれた。
「私は、保険に感謝していますよ。主人が亡くなってしばらく経ちますが、あなた達のお陰で、今の生活ができています。 保険に入っていなかったらきっと今の生活はできていませんでしたからねぇ」
そう言って優しく微笑むおばあちゃんに、私はさきほどよりも大粒の涙を流した。
「ほらほら、泣かないで」
「う……っ、あり、ありがとうございます…っ、本当に……っ、ありがとうございます…っ」
おばあちゃんは、私にティッシュを差し出し、その場から離れていった。
「ううっ…」
おばあちゃんがいなくなってからも、私の涙は止まらなかった。
中には、そうやって思ってくれている方もいるんだな、って思うとどんどん溢れ出てくる。
「え………皐ちゃん…?」
この声……
誰かなんて、すぐに分かった。
「何で……っ、いるの?壮介くん学校は……?」
「今日終業式で午前中までだから…」
あぁ…夏休みか、いいな……
あとここは高校付近だから、そりゃあ会うか……
「おい、壮介ー?」
「ごめん、和、俺ちょっと用あるから先帰ってて」
壮介くんはそう言って私の側にまた近づく。
「バカじゃないの、早く友達の所に行ったら?」
「行けない。それよりも皐ちゃんが心配、放っておけないんだよ……そんなに泣いて……」
「……っ、」
「どうした?何があった?」
優しい問いかけにまた、私の涙が溢れ出た。
「ちょっと……っ、仕事で色々あって……それで…っ、う」
「ごめん、大丈夫。無理に話さなくていいから」
壮介くんは私の頭を自分の胸元に引き寄せ優しく抱きしめた。
「……壮介くん…なんで…っ」
「好きな人が泣いてるから」
「……っ、」
「辛いと思うけど、皐ちゃんなら乗り越えられるよ。皐ちゃん、いつも頑張ってんじゃん。俺知ってんだから」
優しく髪を撫でる手付きに、また鼓動が早くなる。
「……あり……がとう」
私は、ゆっくりと壮介くんの背中に腕を回した。
「え、皐ちゃん………」
「ありがとう、壮介くん」
そっと、壮介くんの胸に耳を当てる。
「………何これ、すげぇドキドキしてんだけど俺」
「うん……凄いドキドキ言ってる」
「皐ちゃんのせい」
「私もドキドキしてるから、お互い様なんじゃない?」
私はそう言って壮介くんから離れた。
「えっ、皐ちゃん今のどうゆう意味?」
「……っ、と、とりあえず、ありがとう…。私仕事戻るから…っ、じゃあね」
慌ててその場から立ち去った。
……何てこと言ってしまったんだ。
私もドキドキしてる。なんて…
これじゃあ私も壮介くんの事好きだ、って言ってるみたい…。
好きじゃないはずなのにーー。
「高校生にこんなに振り回されるなんて……」
思ってもいなかった。
しらばく経っても私の頭の中は壮介くんのことでいっぱいだ。
……抜け出せない。
「皐、あんた大丈夫?」
「へっ?」
「もしかして優也くんに告白でもされたの〜?」
「ブーーーーーッ!」
図星をつかれ、飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「ちょ、皐……まぢで?」
「この反応見てわかるでしょ……この間のデートの時に…ね」
「きゃーーー!おめでとう!もちろん付き合ったんでしょう?」
「………」
無言になる私を見て、笑顔だった香の顔が一気に無になる。
「え、まさかだけど断ったとか言わないよね?」
「いやっ、断ってはいない。その……保留にしてる」
「は!何でよ!2人いい感じだったし、優也くん悪い人じゃないのに!」
「そ、そうだけど……」
まだ好きとか、そんな風に思えないのに付き合うのも……あれだし…
「でも、答えはOKなんだよね?」
「それすら分かんない…」
「ええ…ちょっと皐どうしたの、普通ここは付き合うとこなのに……もしかして、好きな人が別にいるの?」
「……っ、そ、そんなんじゃないよ」
やばい……凄く動揺してしまった。
上手い事ごまかせ、た?
「ふーん、でもあたしは優也くん結構いいと思うけどなぁ」
「……うん」
いい人だし、優しいのはわかるんだけど……
……頭にチラつくのは、壮介くんなんだーー…
「あ、じゃあさもうすぐある花火大会優也くんと行ったら?」
「えっ、それは無理だよ……返事保留してるのに行くって」
「あたしは洸くん誘うつもりっ、だから皐、優也くんとでも行かないと今年の花火大会は行けないよ〜?」
「……うう」
花火大会か……7月の29日だから1ヶ月もないや。