綾乃はため息をつき、封筒を手にして家を出て大通りでタクシーを拾い、仕方なく父の会社へと向かった。


タクシーを降り、ビルの前で足を止めて俯いた。

(入りたくないよ)

ドアの前で躊躇していると、警備員の声にハッとした。
「君、勝手に入っちゃだめだよ!」

「いえ……用事があって」
おずおずと声を上げた綾乃に、

「そういうファンが多いんだよ。」
うんざりとした様子で言った警備員の声に、綾乃はため息をついた。

(だから嫌だったのに)


そこに、女の子の悲鳴と共に2人の男が近づいてきて綾乃はそちらに目を向けた。


警備員はその男の人達を見ると、慌てた様子でファンの女の子を整理し、
「おはようございます、大森さん、安藤さん、早くこちらへ!」
うって変わった笑顔を見せながら挨拶をした後、
「君も早くどきなさい」
警備員は綾乃を手で追い払うようにしたその拍子に綾乃はバランスを崩し、階段から落ちそうになった。

(落ちる!!)

「おっと!」
そう思ったと同時に、綾乃は手を引き上げられた。
振り返ると金髪のサングラスの男が綾乃を見てニコリと笑顔を向けていた、
「大丈夫?」
綾乃は慌てて、その手を振り払うと間をぬってドアの中に入った。

「君!ダメだよ!」
『何!あの女!』

警備員の声と、周りの女の子の悲鳴が後ろから聞こえたが、

綾乃は無視をすると中に逃げ込んだ。