俺はきっと、胸の鼓動は治まってはいたが、興奮が冷めずにいたんだろう。


本屋の店内を意味もなくウロウロし、結局、本も買わずに、店を出た。



僅かな期待を込めて、家までの道程を遠回りし、駅へ寄った。


彼女と村仲優子は、もう駅にはいなかった。


彼女達の家がある、見知らぬ土地へ送る電車は、もう来てしまったのだ。


間に合っていたとしても、それに同乗する勇気はないが…


ただ、もう一度だけ…


もう一度だけ、彼女をこの目で見たかった。


俺は、自転車ですれ違った『あの瞬間』を、もう一度思い出した。


錯覚なんかじゃない…


俺は確実に、彼女に恋したんだ…


自分が通う学校と、同じ高校に通うという事以外は…


名前も知らず、どんな性格かも分からない、あの子に…


俺は恋をしてしまったんだ…


俺は数分間、駅の前にいた後、我に返り、再び自転車をこぎ始めた。


駅から家までの距離は、そう長くはないが、その間に再び降り始めた雨が、俺の身体を打ち付けた。


しかし、それはあまり気にならなかった。




俺は、家に着いて、すぶ濡れのまま自分の部屋に入り、ベットに横になった。


このままじゃダメだ…


何とか、彼女のことを聞き出さないと…


そう思いながら、いつの間にか眠りに就いていた。