『NEMESIS』は、亮のドラムから始まる。


シンバルを、四回叩くのをきっかけに、一気に盛り上がりを見せながら、イントロへ入る。


零は、俺達と何度も練習したかのように合わせてきた。


俺は、その不気味ともいえる自然さに、驚いた。


何だかよく解らない、変な気分だった。


ここまで合っていて、いいものなのか?


実は俺は、ギターを弾きながらも、零の真っ赤なベースを見て、そう思っていた。




ポツリと、一つの不安が、頭をよぎった。




ただ確かなのは、俺も亮も、そして美紗も…


零は『seraph』に、入ってもらうべきだ。


そう考えていたことは、間違いない…




「…どうかな?私」


「何だってんだよ、これは?零…お前、すげぇよ!」


亮は、興奮していた。


美紗が続ける。


「うん、カッコイイ!しかも、初めてベース入りの『NEMESIS』だったけど、すごく唄いやすかった!」


「おい空ぁ、何とか言えよ!俺は、同じリズム隊として、零は問題ない…っていうか、それ以上だと思うぜ!」


「ねぇ、空…あたしのベース、気に入らない?」


「………」


「……空君?」


言葉が出てこない俺に、美紗が心配そうに、呼び掛けた。


「…やっぱこれって、運命なのかな?…こうやって、出会うのかな?運命の相手に…」


この時俺は、自分に問い掛けている気持ちだった。


きっと、ある一つの不安を、打ち消そうとしていたのだろう。


探していた奴が、やっと見つかったんだ…


俺は、自分に芽生えた感情を、取りあえずは押さえた。




「役者は揃った…」


みんなが、俺に注目する。


「これからが、本番だ!」


「うん!みんなで頑張ろうね!」


美紗が、最高の笑顔を見せた。




零のバンド加入が決まったところで、俺は、どうしても引っ掛かる感情を確かめるために、零をスタジオの外に呼び出した。


「少し、二人で話がしたい」


「うん…」


美紗と亮は、何がどうしたか、理解できない様子だった。