…『NEMESIS』…
「『NEMESIS』?!」
三人が、同時に声を上げた。
「零、お前…『NEMESIS』って…」
亮が動揺するのも確かだ。
『NEMESIS』は、年明けの成人式のイベントでしか、フルコーラスで演奏していない。
アレンジは大体完成しているが、『NEMESIS』だけは、きちんとベースが入り、完成してから披露する。
それが、俺の意向だった。
理由は、美紗の処女作であり、『seraph』としての、初めての曲だから…
路上ライヴで、リクエストがあり、演奏した事もあったが、その時はワンコーラスしか演奏していない。
その『NEMESIS』で、零は音合わせをしたい、と言っている。
「ホントに…弾けるのか?」
「私さ、成人式のイベントの時、あの会場にいたんだよね」
「零、いたんだ…」
「日本に帰って来て、間もなかったんだけど、親戚にハタチを迎える子がいて、連れられて行ったの」
「なるほど…」
「美紗の歌、チョーサイコーだったよ!私、美紗達を知ってる人に色々聞いて、ベースがいない事を知って、それで…」
「メンバーに入れてもらおうと…」
「そういう事!」
零は『NEMESIS』を聞きながら、ベースラインをイメージしていたそうだ。
アメリカで、バンドの経験はあったが、いわゆる『洋楽』しか知らなかったために、俺の付けたメロディーに戸惑いがあったのは事実…
しかし、そう難しくはなかったらしい。
零は、俺達とやりたい一心で、路上ライヴにも顔を出していたそうだ。
「まさか、編入も作戦の内?」
「それは偶然ヨォ!まぁ…私は、運命を感じたけどね」
「零の熱い気持ちは、十分伝わったよ。そこまで言うんだから、やってやろうぜ」
「あ、一つだけお願い!…一回だけ、フルで聞かせて。今できてる範囲でいいから」
零は、演奏している間、座り込み目を閉じていた。
そして、全てを弾き終えると、零は立ち上がり、ベースを手に取って言った。
「さぁ、始めようか!」