美紗の歌は、ライヴの後、学校中の話題になっていた。


成人式のイベントではあったが、Y高の生徒も、観客の中にいたのだ。


いつの間にか、美紗は、かなりの人気者になっていた。


他校の男子生徒が、放課後に待ち伏せしたり、先輩が、一年のクラスがある階に来たり…


俺は、不安な気持ちになってはいたが、バンドが人気になれば、ボーカルである美紗も、人気になる。当たり前のことだ。


ただ、俺にも、その影響は多少なりとあり、街中で声を掛けられる事もあった。




世間は、バレンタイン一色…


チョコレートは、嫌いじゃなかった。


甘いものや、ほろ苦いもの…


恋に、よく似ている。




「空君、チョコレート、義理がいい?本命がいい?」


「…え?」


「もうすぐ、バレンタインでしょ?」


「あぁ、バレンタインね。あんま意識したことないしな…貰えるもんなら、貰いたいけど」


俺は、気持ちとは反対の答えを返した。


「そんな事言ってるから、女の子にモテないんだよ」


「関係ないね〜」



何か、懐かしい感じがする…


初恋の相手である『みすず』とも、このやり取りをしたな…




「空君さ、まだ先の話だけどさ、高校卒業したらどうするの?」


「えらく、先の話するな」


「『seraph』は、どうなるのかなぁ…」


「……美紗、やっぱ嫌?バンドで成功目指すの」


「うぅん!嫌じゃないよ!歌を唄っていくのは、私の夢でもあるんから…ただ、まだ早いけど、進学するなら専門学校とか考えてないと…」


「そっか、美紗は学生でいく方がいいかもな…」


「美紗は…って、空君はどうするの?」


「俺はフリーターだね。叶うかどうか分からない夢を、勝手に追うんだ…親に学校に行く金は、出させられない」


「空君、以外としっかりしてるね」


そんな事はない…俺の親は、おそらく、反対するだろうから。


フリーターになることさえも、何を言われるか分かったもんじゃあない。