「お前、全然アドバイスになってねーし!」


「大丈夫よ…私、頑張るから…」


「そうだ!美紗さ、中学の時に、オーディション受けたって言ってただろ?その時は、聞いてる人、どれぐらいいたんだ?」


「うーん…10人くらいかな…よく覚えてないよ」


「10人か、でも、同じ目線で唄っただろ?今回は、人数は遥かに多いけど、俺達の目線は、客席の目線よりも、上にあるんだ。だから…見ない様にしろ!」


「…それも、何だかいまいちだな…」


「わ、わかったよ…とにかく、私、頑張る」


益々緊張しているような気がする……


「あわわ…美紗がロボットみたいだ…」


俺達の健闘も虚しく、美紗の緊張は、解けていない様だ。


だが、時間は止まらない。演奏の時間だ。


会場は超満員。一階フロアには入り切れず、二階にも人が埋まっている。


さっきの、美紗へのアドバイスは、全くの無意味ということになる。


さすがに、俺も緊張してきた。アコースティックギターの弾き語り形式…


静かなんだ…ミスは、すぐに客にバレる。


俺達は、ステージの脇に呼ばれた。いよいよだ!




「あぁ〜〜!緊張する〜〜!!」


美紗は大勢の前で歌を唄うのは初めてで、ましてや500人以上はいる…美紗にとっては、本当に有り得ない状況だろう。


「美紗…美紗なら大丈夫だって!俺らが一番解ってるんだから」


「うん…」


「見せ付けてやろうぜ『seraph』を!」


「よっしゃあ!!」








「圧巻だった…」


後に隆志は、そう聞かせてくれた。


他の9組の内、よかったのは2、3組…


後は成人式に、仲間通しで、記念バンドを組んだ、ド素人だった。


10組の中で『seraph』は、飛び抜けていたそうだ。


隆志だけではない…その会場にいる、500人以上の観衆が、俺達に、いや正確に言えば美紗に、高い評価をしていた。


この噂は、瞬く間に各地に拡がっていった…

今思えば、この成人の日のライブイベントが…


俺達が、離ればなれになった、ほんの小さなきっかけだったのかも知れない…