「空君は、初恋の相手いる?やっぱり、もう忘れちゃった?」


「いや、まだ何となく覚えてはいるけど、顔とかは忘れちゃったかな…なにせ、小学校の頃だし」


「そうだよね…普通は忘れるよね…」


美紗は、俯いてそう言った。


暗い表情になった美紗を見て、俺は焦り、急いで言葉を繋いだ。


「でも、松永さんは、本当にそいつが好きだったんだよ。未だに忘れられないなんて」


「うん、大好きだった…私ね、小学校の頃、いじめられてた時があったんだ」


「いじめなんて、そんな風に見えないのに…」


「見た目は関係ないと思うよ。私、ちょっと暗い部分あったから…いじめっ子達に、付け込まれたのよ…」


「それで、初恋の彼に助けられた…とか?」


「そう…でもそれだけじゃなくて、私が近所の山に入って、迷子になった時も、私を見付けて、助けてくれた。私にとって、ヒーローみたいな子だったんだ…」


ヒーローみたいな存在…


俺になれるかな…そいつ以上の、大切な存在に…



「あのさ、そういえば、もう松永って呼ぶの止めない?」


「え…でも…」


「美紗でいいよ!もう仲良くなれたんだから…名前で呼んで欲しい。私も何気に、もう名前で呼んでるし…」


「あ、あぁ…わかった。じゃあ美紗な!」


そう言って頂けるなら…呼ばせて頂きます…




美紗は、他人が羨む、華やかな世界よりも、もう数年間も会っていない、初恋の相手を選んだんだ…


その時の俺は、そこまで情熱的な恋もしたことがなく、実は、その考えに共感はできなかった。


だが、そんな美紗を素敵だと思えたのは、事実だ。


そして、この時から俺は、美紗の内面も好きになれたんだ…