俺の住むY市から、隆志の住む、I市に着くまでの時間は、今までで一番早く感じた。


それもそうだ…


憧れの相手、松永美紗と、途中から会話しながら来たんだ。


「空君ちょっと待って!」


いつの間にか、美紗は、俺を『空君』と呼んでいた。


美紗はしゃがみ込み、片方だけズレた、黒いソックスを直していた。


美紗が、髪をかき上げた時、左耳に着けているシルバーのピアスが目に入った。


それはとても小さかったが、ちゃんと、天使の羽が丁寧に象られているのが、見て取れた。とても高価そうな物だ。


「それ…可愛いピアスだね」


「あっ、これ?お父さんに貰ったの。でも最近し始めたんだよね。貰った時は、ピアスの穴は開けてなかったから」


「へぇ…穴開けてないのに、くれたんだ?面白いお父さんだね」


「そうでしょう?将来私がしたら似合うだろうって…」


「すごく似合ってるよ!ちゃんと見せてあげた?」


「…うん。すごく似合うって言ってくれたよ…」


その時、美紗は、ほんの少しだが、暗い表情をした様に見えた。


「あっ、そういえば空君も、ピアス着けてるね。いち…にい……え?!三個も?すごい!痛くなかったの?」


「あぁ、最初は痛かったけど…後は慣れだから」


「慣れるもんなんだぁ…私なんか、これ一個の穴を開けるので精一杯!」


「上手にすれば、痛くないよ」


「ふぅん…じゃあ、二個目を開けることがあったら、お願いしないとね!」


美紗はそう言って、眩しいくらいの笑顔を見せた。


……やっぱり可愛い…


「何で三個なの?」


「あぁ…俺は、憧れてる人の真似しただけだから…」


俺は自分の好きな、ミュージシャンの話をした。


「私、ロックバンドの音楽は、よく分かんないけど、格好いいと思うよ。すごい似合ってるし」


「あぁ…ありがと」


「でも、あんまり目立つと、先生に見つかっちゃうよ」


「一回バレて、どつかれたよ」


「うわぁ…あの生活指導の先生、恐そうだもんね」


「実は、鼻にも開けてたりして!」


「本当に?!いやー!痛そう!」