俺は幼い頃、この名前のせいで、クラスの連中にからかわれていた。


曇り空…そら豆…空耳…うわの空…


深い意味はないにしろ、空を『綺麗』だと表現したのはこれで二人目だ…




思い出していた…

俺は幼い頃、この名前が嫌いだった。


なぜ両親は、俺の名前を『空』と付けたのか…


そのお蔭で、俺はからかわれていて、学校に行きたくないと、駄々をこねた事もあった…


そんな時、もう亡くなった祖母は、幼い俺にこう言い聞かせた。


「今日は空が曇っとる。空が元気に笑っとる時は、雲一つなく、綺麗なんじゃが…」


俺は空を見上げた。


幼心に、何となくその意味は伝わった。


俺はこの名前を好きになれた…


「柳瀬くん？」


「ごめん、昔のことを思い出してた」


俺は、祖母とのエピソードを話した。


「素敵なお婆さんだったんだね。『空』かぁ…晴れだったり、曇りだったり、雨だったり…人間を写してるみたいだもんね。いい名前だね」


「松永さんのみすずはどう書くの？やっぱ美しい鈴？」


「うぅん違うよ。私のみすずは美しい『紗』って書くの」


「『紗』って『すず』って読むんだ…へぇ、何か意味があんの？」


「『紗』は、何かを拭ったり、包み込む、っていう意味があるみたい。私の親は、誰かが泣いてたり、傷付いている時に、そういう人を慰めたり、元気付けるような女性になって欲しいって、この名前を付けたって言ってた…『すず』って読むのは珍しいみたいだけどね」


……………


「…どうかした？」


「すごい素敵な名前じゃん…俺の名前なんか相手になんないくらい…」


「ありがと！名前の意味するものって素敵だよね。私も『空』って名前……好きだよ」


！！！！


やっべぇー！


今めちゃめちゃドキッとしたぁ…


っていうか、俺は何を当たり前のように会話してんだ！


変な緊張感が戻って来た。