功さんの目がちょっと潤んでいるのがわかる。

「でも、功さんが幸せになることはお姉ちゃんが望んだこと。

指輪で功さんを縛りたくないと思う」


襖を閉めているが、リビングから六時の壁掛け時計から音楽が聞こえる。


そっと、指輪を仏壇に供えた功さんが言った。


「唯歌に会えて良かった」


清々しさはない。
まだ未練があるようにみえる。
今までずっと身に付けていた指輪を思って寂しく思うのかもしれない。

でも、これから功さんの将来も大きく動くだろう。
高校生から大学生になり、社会に出る。
色んな人と出会い、経験を積み重ねるだろう。
それが、色んな幸せに繋がりますように、と祈る。


「ありがとう」

「いや、サイタ家の人にも歌織ちゃんにも唯歌にも、俺の方から

本当にありがとう」


ちょっとずつ、見えない傷口がふさがりますように、と思い、首を少し横に振りながら笑顔を返した。