その時、グッと抱き締められた。

私の好きな優さんの匂いに胸がギュッとする。

私の肩に回した腕に力を入れてきつく抱き締められる。



――――――離さないで



抵抗できないのは、そう思う自分がいるから。

悲しくなり目を閉じた。



「好きだ。
好きなのに、離れるのか?」


別れを決めたのは私なのに。


離れたくない、このまま抱いてほしい。
この腕を背中に回してすがりたい。


でも、ここで抱かれたら、けじめが無くなる。

離れなきゃ、もっとダメになる。


優さんの背中に軽く手を回して背中をトントンと叩いた。


優さんの腕の力が緩くなった。
優さんの胸を軽く押す。


密着していた身体が離れて、淋しく思ってしまい、俯いて目を閉じる。


「ごめん」

「…――っ」

唇を塞がれた。

離れた優さんの唇が、薄く塗った私の口紅を少し奪っていた。


「思いきり、嫌いになってくれたら、諦めるのに」


そう言って、洗面所に向かって歩いていく優さん。



―――嫌いなんて言えないよ